田辺誠一「MEN’S NON-NO」時代を振り返る「当時、モデルから役者という道は、限りなくゼロに近かった」

「落ち着いた感じのドラマだけど、深さがある!」「田辺さんの役がとてもステキ」と、SNSでも話題。ドラマ25「ハコビヤ」 (毎週金曜深夜24時52分)。

田辺
主人公は、洋食屋と運び屋の2つの顔を持つ男・白鳥剣(田辺誠一)。剣は、通常の宅配便では不可能な分単位の正確性が要求される運びや一風変わった依頼物、さらには人間までをも運んでしまう。
そして、そんな剣が営む洋食屋「キッチン白鳥」に、アルバイトとして入った天野杏奈(影山優佳)が、運び屋のバディとしても活躍するが…。

「テレ東プラス」は、主演を務める田辺誠一をインタビュー! 18歳で芸能界入りし、去年54歳になった田辺。モデル時代のエピソードから監督業に対する思いまで…熱いトークをお届けします。

【動画】「初回から泣けた…」ドラマ25「ハコビヤ」

がむしゃらに頑張らないと、俳優として認めてもらえない時代でした


――ドラマ「ハコビヤ」では、剣と杏奈が実にさまざまなモノを運びますが、全8話の中で、自分の人生とリンクした人物やストーリーはありましたか?

「ちょっとありましたね。借りたままで返せない、返すタイミング失っちゃったものなど、僕もあるので…。例えば、“この本、面白いから貸すよ”と言われて本を借りるじゃないですか。だけど、自分のタイミングが合わないと、なかなか読み始めることができない。読み終わるまで返せないし、気がつくと、ずいぶん時間が経ってしまって…(笑)」

――あるあるですよね。貸す側も、借りる側も。

「そうなんですよ。20歳くらいの頃、中学の時の友達が突然家にやって来たことがありまして…。おそらくデートか何かで、僕はもうファッションモデルをしていたので、『服を貸して!』と言われてコートを貸したんですけど、それもいまだに返ってきてない(笑)。もう30年以上前の話ですが、その友達が“運び屋”に頼んで、僕にコートを返しに来たら面白いですよね。コートを貸して、その後どうなったのか…。あれは本当にデートだったのか?あるいはその人と結婚したかもしれませんし…そもそも彼が今どうしているか気になります」

田辺
――たしかに興味深いお話ですね(笑)。ドラマの中で剣は、人々の人生を変えるきっかけを与えます。これまでの人生を振り返って、田辺さんの中で、何か大きく変わるきっかけのようなものはありましたか。

「やはり僕の場合、“人前に出るようになった、俳優になった”ということで、人生が大きく変わりました。18歳で『MEN’S NON-NO』モデルになり、23歳で役者を始めましたが、そこで、自分を取り巻く環境が大きく変わりましたよね。もちろんそれ以降も、多くの現場を経験し、結婚をして子どもを育てる中で、小さな気づきや変化はたくさんありました。何か大きく変化したというのはないかもしれませんが、あらゆる経験をし、自分の中身も徐々に変化していったという感じでしょうか」

――改めてデビュー当時を振り返ると、どんな思いがありますか。

「今思うと、何も考えていなかったような気がします。役者を始めたけど、演技というものがよくわかっていませんでしたし、どんな作品に出演したいというビジョンもなかった。わからないことが多かったので、今の若い俳優さんを見ると、“みんなすごいな”と思います」

――田辺さんのように、「MEN’S NON-NO」のモデルを経て活躍している俳優さんは、数多くいらっしゃいます。当時のモデル仲間と交流する機会はあるのでしょうか。

「俳優をしている皆さんとは、仕事の現場でたまに会いますし、10~20代前半まで、モデルとしてずっと一緒にやってきたので、仲間意識はあります。いざ自分の道を選ぶ歳になると、就職する仲間もいたし、ミュージシャンになった人も。当時、モデルから役者という道は、限りなくゼロに近かったんですけど、ちょうど先輩の阿部寛さんが役者になり、“そんな道があるんだ”と思ったことをよく覚えています。がむしゃらに頑張らないと、俳優として認めてもらえない時代でした。

モデル出身の俳優はルックスに気を取られているとか、劇団出身の俳優の方がしっかりしているとか、そんな風当たりも強かった。
阿部さんもそうですし、大沢たかおくんや反町隆史くん、竹野内豊くん…みんな風当たりが強い中で何かを証明するために頑張ってきたんだと思います。世代は違いますが、坂口健太郎くん、成田凌くん、宮沢氷魚くんとか、彼らも新しい時代を切り開こうとしている。素晴らしい後輩たちが出てきたことで、僕たちも、あの時、頑張ってきて良かったなと思えますし、この熱量がその次の世代にも伝わると嬉しいなと思います」

――今は俳優を目標に、「MEN’S NON-NO」モデルを目指す方もいます。

「話を聞くと、そういう道もあるんだなと思います。僕らは何も考えていなかったけどね(笑)。若い子たちはビジョンもしっかりしているし、すごいですよ」

短編でも自主制作でもいいから、撮りたいものを探したい


――俳優として、30年以上のキャリアを持つ田辺さんですが、50代半ばを迎えて、仕事に対する心境の変化などはありましたか。

「今になって、役者として欲が出てきました。年齢的なこともありますが、自分の中でできないことも見えるようになり、逆に“これから先、もうちょっと新しいこともできるんじゃない?“と、思うようになりました。今までは、あまり野心みたいのがなかったんですよね。でも最近は、悔しがったり、嫉妬したり、あの役をやりたいとか、そういうガツガツさやアグレッシブさがあってもいいのかなと思うようになりました」

田辺▲ドラマ25「ハコビヤ」より

――過去に映画監督としてメガホンも取っていますが、今後、監督業の予定は?

「ずっとやりたいという気持ちはあるんですよね。最後に映画を撮ったのが32、3歳で、もう20年経っています。僕の中では、どこか伊丹十三さんのイメージがあって、伊丹さんは、俳優をやって、『MEN’S CLUB』のモデルもやって、食を愛する文化人で、30歳の頃に自主映画を撮っているんですよね。そこからしばらく撮らずに、50歳の時、映画『お葬式』を撮って大ヒットしました。伊丹さんを見習って、“50歳からスタートしていいんだ! じゃあ何を撮ろう?”と考えましたが、結局54歳になってしまって(笑)。でも焦らずに、短編でも自主制作でもいいから、撮りたいものを探したいと思っています。

実は去年、戦う道具として、4K/60pで撮れるカメラと、編集できるパソコンを買ったんですよ。あとは脚本を書けよって話なんですけど(笑)。
今はこういう技術があり、ここまで映像で表現できるというのを踏まえた上で脚本を書き、いずれは映画を撮りたいという思いは、沸々とあります」

――田辺監督がどんなテーマでどんな作品を撮るのか…ドラマ同様、楽しみにしています。

【田辺誠一 プロフィール】
1969年4月3日生まれ。東京都出身。1987年、雑誌「MEN’S NON-NO」で専属モデルとしてデビューし、1992年に俳優としても始動。シリアスからコミカルまで幅広い役柄を演じ、数々の映画やドラマに出演。
「ハッシュ!」(02/橋口亮輔監督)にて報知映画賞主演男優賞を受賞するなど、数々の賞を受賞。映像はもちろん、蜷川幸雄、宮藤宮九郎演出作品や劇団☆新感線など、舞台出演も多い。
アーティストとしても多彩な活動を続けており“画伯”と称される独特のイラストも人気。映画監督としては、第49回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式招待作品となった「DOG-FOOD」(99)、「ライフ イズ ジャーニー」(03)などを手掛けている。

(取材・文/佐藤ろまん)

【ドラマ25「ハコビヤ」第2話】
洋食屋・キッチン白鳥を営む白鳥剣(田辺誠一)。彼には「運び屋」という、もう一つの顔がある。そんな彼が営む洋食屋でバイトとして働く天野杏奈(影山優佳)は、運び屋の仕事にも興味を持ち手伝いだす。そんなとき、元カレにスマホを届けてほしいと麻衣子(立石晴香)が依頼してくるが、その相手は人気芸人の飯沼(おいでやす小田)だった。だが、飯沼には女優でモデルの妻・あずさ(東風万智子)がいて…。
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