2019.08No.148(オンラインNo.30)

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天伯之城「ギカダイ」

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もくじ

Chapter1切り紙(Kirigami)が変えるエレクトロニクス技術

電気・電子情報工学系 准教授 河野 剛士

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神経電極とは何ですか。
 脳が出す信号をキャッチするため脳に入れる電極です。脳の異常を検知したり脳の仕組みを理解するために使っています。逆に脳に信号を送ることもできるので脳の治療に使うことも考えられます。

脳の信号を測るなら頭に吸盤を付けるっていう方法もありますよね。
 ありますが、より正確なデータを採るには脳の表面に直接電極を付ける方が良いのです。しかし、より精度の高いデータを得るにはまだまだ改良の余地があると考えます。たとえば脳はプリンみたいにやわらかい組織なのに半導体は石みたいな固いものでできています。また、脳は常に拍動しているので伸び縮みしない半導体は脳にとって負担になります。

半導体をゴムで作ればいいんですね。
 ゴムだって伸ばすのに力が要ります。それにゴムは伸びても3倍程度ですが、ひじやひざの組織は4倍に伸びます。将来、脳以外にも使うことを考えるなら、それ以上伸びることが求められます。

そういう材料は見つかりそうですか。
 材料を見つけるというより、材料に工夫を施すことで伸び縮みを実現させようと思いました。七夕飾りの切り紙細工に「天の川」というのがありますね。紙自体に伸縮性はないですが、切り込みを入れることで伸びる形を作れるんです。この仕組みを応用して神経電極を作ってみました。

それで先生の机の上に「天の川」が飾ってあるんですね。
ちょっと広げてみましょう。
わーきれい!七夕が来たような気持になりました。

 この天の川で5倍の大きさになります。切り込みの数をさらに増やせば10倍〜20倍ぐらいはすぐ実現できると計算で出ています。

条件としては充分ですが、それを電子回路にするんですよね。
 集積回路は技科大のLSI 工場で作りました。通常シリコン(半導体)を土台に回路をプリントするところを、ラップのような高分子シートにパターンをプリントしました。厚さ10マイクロメートルです。

集積回路はウェハーにしかプリントできないと思ってました。
工場のスタッフもワクワクしたでしょうね。

 半導体に使われる材料なら、持ち込めばいろいろなものにプリントできます。プリントして切り込みを入れてビョーンと伸ばしてみたら10倍に伸びました。

もう脳につけてみました?
 はい。マウスによる実験で、ヒゲに対応した信号とか、目から入った光に対しての信号とか正確に計測できています。

出来ちゃいましたね。
 出来ちゃいました。でもまだまだ改良したいことはいっぱいあります。臓器はいろんな方向に伸縮しますが、我々の神経電極は切り紙の天の川と同じくひとつの方向にしか伸びませんし、体に埋め込めるようにもっと小型化したいですし、さらに改良を重ねて「使える技術」にしていきたいです。

それにしても材料でなく構造を工夫するなんてよく思いつきましたね。
 実は4年前のある朝目覚めると当時小4の息子が折り紙で遊んでまして天の川みたいなのを作っていたんです。「これだ!」と思い、すぐ学生と取り組んだのがきっかけでした。

なんと!きっかけは小学生の息子さんだったんですね。
今日はありがとうございました。

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天伯之城 ギカダイ

 豊橋技術科学大学はエフエム豊橋(84.3MHz)とのコラボレーションにより、FMtoyo.png
本学のアクティビティを広く皆様にご紹介するラジオ広報を放送しています。その名も「天伯之城 ギカダイ」。
 https://www.tut.ac.jp/castle.html ←こちらより視聴可能
 エフエム豊橋の人気パーソナリティ渡辺欣生さんが、毎週、本学のいろいろな研究室、サークルなどを訪問し、普段、素朴に思う技科大の「なに?なぜ?どうして?」を分かりやすく紹介しています。

Chapter2ケニアのスラムで暮らす

   

建築・都市システム学系 講師 小野 悠

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もともと旅好きだったんですか。
 中学時代はホームステイで留学したり、高校2年生 のときには一人でトルコに放浪の旅に出ました。その後70か国ほど、アジア・中東・アフリカ・南米をメインに行っています。2014年に都市工学について学ぶ中、アフリカの街の成り立ちに興味が湧き、どっぷり浸かりたいと思いました。近代的な都市とスラムといった富と貧がコンパクトにキュッとまとまっている環境が面白くて知りたいと思ったんです。

「スラム」ってイメージは浮かぶんですが、何か定義は あるんですか。
 私は「インフォーマル市街地」と呼んでいるのですが、 居住環境が悪い場所、例えば床面積がせまい、水場までの距離が遠いなど、違法に作られた街=インフォーマル な街になっている場合が多いです。

外国人はなかなか住もうと思わない場所ですよね。
 都市を学ぶならそういうところに住まなきゃダメでしょうっていう使命感でしょうか(笑)。でもさすがに最初はどうしていいかわからず仲の良い知り合いの家に泊めてもらいました。3×3mの家に6人、家賃が月1500円、トタン1枚隔ててお隣さん。電気や水道は一応あるのですが違法に引いてあるものでした。

日本で暮らす我々には想像できない環境ですね。
 それでも歩いて5分圏内になんでもあるし、治安も良い方と聞いていました。まず子どもたちが私と仲良くしてくれて、最初警戒していた大人たちにも解けこむこと ができました。

現地では何と呼ばれていたんですか。
 私、小柄なので「小さい」という意味の「カニーニ」と呼ばれていました。「カニーニと申します」と自己紹介するたびに大ウケして、得しました(笑)。私の誕生日には、住んでいた長屋でパーティーも開いてもらいました。食事は私が用意したのですが、プレゼントに服を作ってもらいました。

わー!素敵な経験ですね。スラムのイメージが変わりました。
 でもスラムって、本来都市は制度や法律に基づいて作られるものなのに、それ無しで既に50万人が住んじゃって、学校も教会もできていて、都市として機能している。 これってどういうことなのか。都市工学の存在意義さえ 疑うほどわからないことがいっぱいです。土地の売買は どうなってるのか、敷地境界はどうなってるのか。調査は難航しました。調べようとすると住民から警戒されるんです。生活を奪われるんじゃないか、街を壊されるんじゃないかと思うんでしょうね。調査に協力的でない人が多かったです。あと、やはり環境は悪くて、行くたびに誰か知り合いが亡くなってるんです。汚物もひどくて、 私も最初のひと月で10キロ痩せました。でも、街としては成り立ってるんです。たしかに「スラムは壊すべき」という考え方はあります。でも撤去することはできても、 また別の場所に作られるだけで何の解決にもなりません。環境を整えようと政府が電気水道を供給しようとしたら、それまでスラムで違法な電気水道の供給で食べていた人たちの抵抗にあいました。コトは複雑です。改善のやり方は地域地域で考えなきゃいけない、そんなことがわかっています。

都市工学の知見からの貴重な経験談、ありがとうございました。

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