時代劇などで最も良く目にする乗物(のりもの)と言えば「駕籠」(かご)と、高級な駕籠である「乗物」ではないでしょうか。その種類は、利用する人の身分によって厳格に定められており、また目的や利用方法によっても呼び方が変わりました。乗物と駕籠の違いについて、そして種類ごとの特徴などを詳しく解説していきます。
竹または木製の座席を1本の棒に吊し、前後から人が担いで運ぶ乗物を「駕籠」(かご)と言います。竹製で籠状のタイプや、木製で箱状の物など、身分・階級・用途等により、様々な種類の駕籠がありました。
駕籠のなかでも、引き戸付きで装飾が施されている高級な物は「乗物」(のりもの)と言い、大型で柄の長い物は「長柄」と呼びます。主に公家や武家が使用していましたが、特例として医師も比較的簡素な乗物を用いることが認められていました。
乗物と駕籠の違いは明確に区別されていませんが、乗物は駕籠に比べて身分の高い者が使用し、より居住性や装飾性が高く、側面に戸が取り付けられている物とされています。また、乗物のなかでも、女性用は「女乗物」(おんなのりもの)と呼ばれ、主に将軍や大名夫人などが使用し、実用性を重視した男性用の乗物とは異なり、「蒔絵」(まきえ)などが施された豪華な物となっています。
また、駕籠を担ぐことを業とする者を「駕籠舁」(かごかき)、担ぐ人のことを「駕籠者」(かごのもの)と言い、乗物を担ぐ者は「陸尺/六尺」(ろくしゃく)と呼ばれました。駕籠者になるには、運ぶ技術だけでなく、長身の身体(六尺:182cm)必要だったとされており、ここから陸尺と呼ばれるようになったとの説もあります。
乗物や駕籠の料金は、駕籠者や陸尺の身長や、目的地までの移動距離、スピード、乗る人の体重などによって決められていました。
乗物と駕籠は、使用者の身分や格式によって、使用できる種類が異なります。ここでは、乗物と駕籠の主な種類を紹介しましょう。
乗物と駕籠の種類 | |||
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名称 | 使用者 | 使用目的 | |
乗物 | 溜塗り惣網代 (ためぬりそうあじろ) |
将軍 | 参勤交代など |
権門駕籠 (けんもんかご) |
大名の家臣 | 主君の用事で家臣が出掛ける際など | |
女乗物 (おんなのりもの) |
大名家・ 将軍家の奥方 |
輿入れなど | |
駕籠 | 法仙寺駕籠 (ほうせんじかご) |
富家の商人・医者・小身の大名 | 裃着用(正装)の際など |
あんぽつ駕籠 (あんぽつかご) |
庶民 | 移動用 | |
四つ手駕籠 (よつでかご) |
庶民 | 移動用 | |
山駕籠 (やまかご) |
庶民 | 箱根の山越え専用 | |
鶤鶏駕籠 (とうまるかご) |
罪人 | 罪人を勘定奉行公事方へ護送用 |
全体が網代張りになっており、溜塗りで仕上げた豪華な駕籠。
乗物としては最高位に位置付けられ、主に将軍や公家が使用しました。
乗用部は引き戸を開けて乗り降りするタイプで、柄は黒塗りにされており、網代張り(竹や檜を薄く削って縦横に編んだ物)の乗用部分は、朱や鉄丹を塗って木炭で艶消しし、透漆または梨地漆を溜塗りして仕上げられています。
将軍や公家は「黒塗り」の乗物を使用し、官僧は「朱塗り」の物を使用しました。
乗り口に引き戸があり、屋根、腰、扉窓の下を黒漆塗りで仕上げた豪華な駕籠。
身分の高い武士が主君から貸し与えられ、参勤交代の大名や、大名の家臣が主君の用事で他家へ行く際に使用されました。
今で言う街中を走るタクシーのような物で、庶民が乗っていた駕籠のことを指します。町の辻(道端)などに待機して客を乗せる駕籠だったことから、別名・辻駕籠とも呼ばれました。
町駕籠にも様々な種類やランクがあり、富豪や小身の大名などが使用した最上級の駕籠は「法仙寺駕籠」(ほうせんじかご)と言います。また、中級レベルの駕籠は「あんぽつ駕籠」と言い、最も庶民に利用されたのが「四つ手駕籠」(よつてかご)です。この他にも、山道を上り下りする際に使用した「山駕籠」(やまかご)や、庶民の罪人を護送する際に用いた「鶤鶏駕籠」(とうまるかご)などもありました。
法仙寺駕籠は、別名・切棒駕籠とも呼ばれ、町駕籠(辻駕籠)のなかでも最上級の駕籠。
現代で言えば運転手付きの自家用車といったところで、富家の商人や医者、富豪の市民や小身の大名など、比較的富裕な町人が利用し、多くは裃着用(和服の正装)の際に利用しました。
乗用部は板張りの箱型で、側面は畳表の装飾張りとなっており、屋根や窓枠などの木部は、漆を通して木目の美しさが見える春慶塗(しゅんけいぬり)、または黒塗りとなっています。また、側面には戸があり、左右と前方にある小窓には竹簾がかけられ、その上には雨よけも付いていました。
さらに、乗り降りの際に頭があたらないよう屋根の一部が開閉できる他、内部は畳の上に座布団を敷かれているなど、様々な配慮がされた高級仕様になっています。
中級の駕籠にあたり、江戸時代の町駕籠のひとつ。
前方に傾斜が付けられ、上部には茣蓙(ござ)、左右は引き戸の上から畳表が垂れかけてあります。
また、前後には小窓が付いており、屋根や腰、窓枠は能代塗り、もしくは春慶塗、黒漆塗です。
4本の竹を四隅の柱とし、割竹で簡単に編んで垂れを付け、木製の柄で作られた簡素な駕籠のことを指します。
庶民が最も愛用していた駕籠で、江戸における町駕籠の代表的な駕籠だったことから、別名・町駕籠(まちかご)や辻駕籠(つじかご)、宿駕籠(やどかご)などとも呼ばれました。
四つ手駕籠は、前後左右に茣蓙などの覆いをかけ、雨露がしのげるようになっていますが、この覆いがない物を「道中駕籠」(どうちゅうかご)と呼び、四つ手駕籠より前後のつくりが丁寧で、京や大坂で使われていた物を「京四つ路」(きょうよつじ)と呼びます。
文字どおり山道を上り下りする際に使用される。
四つ手駕籠と比べ、さらに軽量化されており、人が座る上に屋根をかけただけで、側面は覆いもかけられていないため、雨露をしのぐことができない簡易な駕籠。
屋根は網代で作られ、竹で編んだ底を丸棒や丸竹から吊るして担ぎます。
江戸時代において、庶民の罪人を勘定奉行公事方へ護送するための駕籠。
竹を円筒形に編んだ物で、その形が鶤鶏(とうまる:鶏の一種)を飼うときに使う円筒状の鳥籠(とりかご)に似ていることからその名前が付きました。
罪が軽い場合は山駕籠が用いられ、武士の場合は普通の駕籠に青網をかぶせた「護送駕籠」を使用したと言われています。
鶤鶏駕籠は、高さ1mほどの割竹で編んだ目駕籠(めかご)で、側面には中にいる罪人の様子を見たり、食べ物を入れたりする「ごき穴」や、下の板張りの台には大小便用の「落とし穴」が設けられていました。護送中は、罪人が身動きを取れないよう手足や身体は縛り、舌を噛んで自殺しないよう「くわえ竹管」をくわえさせ、筵(むしろ)で覆って護送したと言われています。
その他の駕籠の呼び名 | ||
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通称 | よみがな | 説明 |
早駕籠 | はやかご | 急いで走らせる駕籠のことで、特に、早打ちの使者を乗せた駕籠のことを指す。主に庶民が利用し、スピーディーに移動することを目的としていることから、床面が天井よりも狭くなっているのが特徴。 通常は2人で運ぶが、早駕籠の場合は3人で交代しながら運ぶため料金は5割増しとなり、4人で交代の駕籠の場合は倍の料金になる。 |
垂れ駕籠 | たれかご | 左右に藺筵(いむしろ)を垂れ下げた小型の駕籠のこと。 |
道中駕籠 | どうちゅうかご | 江戸時代、賃銭を取って街道で客を乗せた駕籠のこと。 |
下ろせ駕籠 | おろせかご | 遊里通いの客を乗せる駕籠のこと。江戸時代、上方の遊里で、駕籠舁が「重くばおろせ」と歌いながら担いだことによる。 |
替え駕籠 | かえかご | 江戸時代、宿駅で駕籠を乗り換えること。 |
ほい駕籠 辻駕籠 |
ほいかご つじかご |
「ほい」は掛け声の意味で、江戸時代に、辻待ち(街頭で客待ちをする)や駅路を往来した粗末な駕籠のこと。別名は辻駕籠。 |
忍び駕籠 | しのびかご | 人目を避けてこっそり行く駕籠(遊里通い)、または大名や奥方などが忍びの外出に用いた駕籠のこと。 屋根は黒ラシャで覆い、腰と棒を黒く塗ってある。 |
月切り駕籠 | つきぎりかご | 江戸時代、駕籠を常用する資格のない小身の旗本や諸家の臣などが、願い出により、5ヵ月を期限として駕籠の使用を許された駕籠。 |
問屋駕籠 | といやかご | 各宿場にある問屋場を通した駕籠のこと。今で言う、営業所に待機し、客の申込みに応じて乗せるハイヤーにあたる。 |
立て駕籠 通し駕籠 |
たてかご とおしかご |
出発地から目的地まで同じ駕籠を通して雇う駕籠。別名「通し駕籠」。 |
宿駕籠 雲助駕籠 |
やどかご くもすけかご |
江戸時代、旅人を乗せて、宿場と宿場の間を往来した粗末な駕籠。別名「雲助駕籠」。 |