学校の出席簿や靴箱が男女で分けられていることを不自然に感じませんか。それとも自然と捉えますか。県内の公立小学校で、性別で児童を分けない「混合名簿」の導入が進んでいます。県教委によると、導入率は2021年度で86.8%に上っています。一方で、中学校は 58.5%にとどまります。日教組の調査によると、全国の導入率(20年度)は小学校が92%、中学校が75%。徳島は全国の導入率を下回っています。県内では1990年代から女性団体などが導入を要望し続けてきましたが、県議会の保守系議員の反対などで推進の動きが停滞していた時期もあったようです。しかし近年、トランスジェンダーら性的少数者の人権保護という観点から改めて名簿の在り方がクローズアップされています。

小中学校の名簿の在り方について議論したパネルディスカッション=徳島市内

■トランスジェンダーの子どもたちらにとって

 「男女別名簿では、何かにつけての順番で男子が先で、女子が後になりがち。昔は『なぜ、男子が前なのか』という問題提起がされていましたよね。今は視点が加わり、性別で分ける名簿はトランスジェンダーの子どもたちらにとってどうなのか、という点からも議論されています」。11月27日、徳島市内で開かれたパネルディスカッション「あらためて男女混合名簿について考える」(徳島市フェスティバルあい実行委など主催)で、女性団体で長年、活動している高開千代子さん(67)がそう強調しました。約20人が参加し、名簿のほか、制服、ランドセルの色など教育現場で「男女」という性別で分けられがちなことについて意見交換しました。「服装やランドセルについては選択の幅を広げるということが鍵になる。一方で、名簿については制度そのものを変えていかないといけません」と高開さんは訴えます。

 県教委によると、県内小中学校での性別で分けない「混合名簿」の導入状況は次のグラフの通りです。

 

 導入しているのは2021年度、公立小学校 166校のうち 144校で86.8%。20年度は132校で79.5%、19年度は127校で76.5%で、導入する学校の割合はここ3年で10ポイント増え、80%を超えました。一方で、公立中学校は21年度で 82校中 48校と、58.5%にとどまります。20年度は43校で52.4%、19年度は41校で50%でした。市町村別の導入率についても県教委に尋ねましたが、「算出していない」という回答でした。

 

■県教組「ジェンダーへの『意識のなさ』が問題」

 日教組は長年、性別で分けない名簿の導入を要望しています。11月のディスカッションには県教組の三好佳代書記長も登壇しました。県内の導入状況を紹介した上で、「導入を検討していない学校があるのが問題。壁は、名簿を変える手間と意識のなさ。現在、学校に入っている名簿や成績を処理するシステムは混合名簿を前提にしているため、手間の問題はないとは思います」と話しました。

 また、ディスカッションでは元教員の冨田真由美さん(69)=県教組職員=が、20年ほど前に勤務する中学校に混合名簿が導入されたときのことをこう振り返っていました。「導入すると風景が変わりましたね。例えば、卒業式ではそれまで男女が別々に分かれて並んで座っていたけれど、導入後はずらっと男女が混じって座る。それを見て自然だなと感じました。ただ、現場の教員からは『変えよう』と言いにくい。学校全体の仕組みを変えることになるので。私は結構、ものをはっきり言うタイプなんですが、それでも言いにくかったですね。また、これは言い訳かもしれないけれど、日々の業務に追われる中で、名簿の在り方を考えることがどうしても後回しになってしまう。でも、その後、LGBTの当事者から『男女別名簿がずっと嫌だった』と聞いて、ずっと苦しめていたことに気付いたんです」。

■「なんで自分はこっちなんだろう」という違和感

 トランスジェンダーであることを公言している吉野川市出身の太田翔希さん(26)=大阪市在住、会社員=に小中学校時代の経験を聞きました。太田さんは生物学的には女性で、自認する性は男性であるFTM(Female to Male)。自分のセクシュアリティーについてはっきりとした認識を持ったのは20歳の頃ですが、小学生の頃からスカートをはくことに苦痛を感じるなど、性に違和感を持っていたと言います。

 「吉野川市で小中学校に通いました。名簿は男女別。『なんで自分はこっちなんだろう』という意識がいつもついて回っていましたね。出席番号っていろんな場面で使われる。何かにつけ出席番号や性別で分けられ、並ぶときにも先生は悪気もなく、『男子はこっち、女子はあっち』なんて言いますよね。そうやって分けられる息苦しさはずっとあった。でも、当時は違和感の理由が分かっていなかったんですよね。だからまだましだったのかもしれません。自覚していたらもっと苦しかったかも」

■県教委「導入するかどうかは学校が判断」

 県教委は性別で分けない名簿の導入を推進していないのでしょうか。徳島新聞の取材に対し、県教委人権教育課の森下稲子課長は「男女共同参画、人権の視点から性別役割分担意識を見直すことは大切で、そうした人権教育は推進しています」とした上で、性別で分けない名簿を導入するか否かについては「学校の判断。保護者や生徒、職員の理解を得て、学校として判断してもらっています」と話しました。

 ディスカッションにはかつて学校に混合名簿の導入を働き掛けた保護者や女性団体のメンバーも出席しました。「今の時代、混合名簿を導入しない理由がない。保護者が声を上げると変わると思う」「まだ混合名簿が100%になっていないと知ってびっくりした」といった意見が出ていました。

 皆さんの通っている学校、あるいは皆さんのお子さんが通っている学校の名簿はどうなっていますか?それについてどう思っていますか?名簿に関わるご経験やご意見をこちらから、お寄せください。