徳田秋声の著作、文京の竹久夢二美術館で展示 秋声ゆかりの地での展示も呼びかけ

2021年3月18日 17時00分

徳田秋声

 金沢三文豪の1人、徳田秋声(1871~1943年)の生誕150年を記念して、徳田秋声記念館(金沢市)が、全国の文学館や美術館に秋声に関するミニコーナーの設置を呼び掛けている。新型コロナウイルスの影響で金沢への誘客が難しい中、全国に協力の輪を広げ秋声への関心を高める狙いだ。第1弾として、東京都文京区の竹久夢二美術館で夢二のデザインによる秋声の著作が展示された。(小佐野慧太)
 「秋声は文京区に長く住んだ地元ゆかりの作家。展示を提案いただき、ぜひ協力したいと思った」。夢二美術館の石川桂子学芸員は語る。6月6日まで開催中の企画展「夢二デザイン1910―1930」で、館が所蔵する夢二が装丁した秋声の本をミニコーナーで展示している。

竹久夢二美術館に展示されている夢二の装丁による徳田秋声の本=東京都文京区で(竹久夢二美術館提供)

 童話「めぐりあひ」のデザインが異なる二冊、短編集「ある売笑婦の話」、長編小説「断崖」の計四冊が並ぶ。「めぐりあひ」は1本の木の周りを2匹の鳥が舞うデザイン。本を編集した有本芳水の回顧録「笛鳴りやまず」によると、めったに笑わない秋声が装丁を見て笑顔を見せたという。
 徳田秋声記念館の藪田由梨学芸員は夢二記念館の展示について「『1冊でも結構なので』とお願いしたにもかかわらず、想像以上に力を入れて紹介していただいた」と感謝する。
 ミニコーナー設置は、秋声と関係のあった人物を紹介する文学館や美術館などに、昨年から依頼している。各館で所蔵する秋声の関連資料を展示し、今年が生誕150年だと伝えてもらうよう呼び掛けている。
 岡山市の吉備路文学館も4月からミニコーナーを設置することが決まっている。岡山県出身で秋声と親交の深かった作家の近松秋江しゅうこう、正宗白鳥の資料を通して2人から見た秋声の姿を浮かびあがらせるという。
 藪田学芸員は「全国津々浦々に協力の輪が広がっている。各地の人に、秋声との思いがけない出会いを提供できれば」と話している。

◆実は恋敵だった秋声と夢二

 金沢で生まれ育った徳田秋声と、金沢・湯涌温泉に一時滞在していた13歳年下の竹久夢二―。実はこの2人、ひとりの女性を巡って恋のライバルと言える関係にあった。
 徳田秋声記念館によると、夢二が装丁した秋声の本は1913~21年刊行の5作品。この時期の秋声の文章に夢二と深いつながりを示す記述は見えないため、藪田由梨学芸員は「当時それぞれ人気作家だった2人を、出版社が組み合わせただけだったのでは」と推測する。
 そんな2人をつなぐ人物が、24年ごろに秋声に弟子入りした山田順子ゆきこだ。初めての小説の装丁を夢二が担当した縁で、順子と夢二は急接近する。だが、交際は2カ月で破局。今度は秋声が30歳年下の順子と交際を始める。関係は数年ほど続き、順子がモデルとみられる夢二の絵を雑誌で見た秋声が「ちっとも順子の魂をつかんでいない」と批判したという逸話も残る。
 秋声は後期の代表作「仮装人物」で、女弟子に恋をし、ずるずると関係を清算できない老作家の姿を冷静な目線で描いた。作中には、夢二をモデルにしたとみられる画家も登場する。
 藪田学芸員は「秋声は決して『地味な作家』じゃない。ぜひ生誕150年を機に、秋声の新鮮さ、新しさにふれてほしい」と話す。

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