<アスリートの性差考㊤>混合種目が競技に活力も 筋力の違い影響しない種目限られる

2020年12月17日 09時43分
 スポーツといえば、男女別に分かれるものという認識は根強い。競技によっては筋力や骨格の発達した男子が優位になる側面が強く、女子の競技人口を増やすには、男女別での実施は欠かせなかった。五輪やパラリンピックでも、男女混合で行われる種目はごくわずかだ。その中で、サッカー女子元日本代表FWの永里優季が今秋、神奈川県2部の男子チームに期限付き移籍してプレーし、新たな挑戦として注目を浴びた。スポーツにおける「男」と「女」の現在地を探り、当たり前のように存在する「境目」を見つめ直す。(兼村優希)

◆「男女関係なし」馬との信頼関係に尽きる馬術

 五輪で唯一、全種目を男女混合で行う競技の馬術。元々は男子の軍人のみに限られたが、1952年ヘルシンキ五輪から混合で実施している。2016年のリオデジャネイロ五輪代表の黒木茜は、「馬との信頼関係をいかに築けるかに尽きるので、男女は関係ない」と話す。

ドイツの国際大会で愛馬と演技を披露する黒木茜=Ms.Flora Keller提供

 黒木の専門は馬場馬術。馬とともに踊るようにステップなど特定の動きを演じ、正確さなどを評価する種目だ。人間にも繊細さが必要とされ、世界ランキングのトップ3を女性が占めているのが興味深い。黒木は「馬が想定外の動きをしたときに力が必要で、瞬発的な力では男性の方が有利と感じるときもある。乗れる馬の選択肢も狭まるし」と苦笑しつつ、「女性も男性の上に立てるスポーツなので、楽しみではある」とやりがいを感じている。
 一方で、出場機会の拡大を考えると気持ちは複雑だ。「男女別で競技した方が順位も上がるし、五輪の出場枠も確保され、機会も広がる。できることなら別にしてほしい思いもある」と本音を漏らす。

◆エアライフルは決勝8人中、女子が7人占める

 日本ライフル射撃協会は今夏、オンライン開催の全国高校スポーツ射撃大会を、初めて予選から男女混合で行った。エアライフル種目では決勝に残った8人中、女子が7人を占めたという。松丸喜一郎会長は「混合でやることで、男女で力の差はないと分かった」とうなずく。標的を狙う正確性を競う種目なので、筋力の違いがあまり結果に影響しないということか。
 とはいえ、現状ではこうした競技はかなり限られる。そもそも、欧米の男性社会で生まれた近代スポーツは、筋力など男性が優位になる身体能力の要素が勝ち負けを左右することが多いのも事実だ。

◆東京五輪に参加予定の女子選手48%種目は男女別が大半

 来年の東京五輪に参加する女子選手は48.7%を占める見込みだが、種目は男女別が大半。混合種目はリオ五輪から倍増して18種目となるが、男女が個人で直接対戦するわけではないリレーや団体戦がほとんどだ。
 一方で、パラスポーツでは男女の差を逆手にとり、ハンディとして生かす競技もある。男女混合でチームを組む車いすラグビーは、障害の程度に応じて選手の持ち点が決められ、同時にコートでプレーする各チーム4選手の持ち点の合計の上限が定められている。女子が含まれるとその上限が0.5点追加され、障害が軽くより攻撃的な選手を投入しやすくなる。

練習で汗を流す車いすラグビーの倉橋香衣(右)=東京都品川区で

 18年世界選手権で日本は、障害が重く持ち点が0.5点の倉橋香衣(かえ=商船三井)が活躍し、初優勝に貢献した。女性の投入が競技の妙を生む好例だ。海外チームでも障害の重い女子選手を加える動きがあり、倉橋は「男性だけでは不可能なメンバーで組め、戦術の幅が広がる。自分が男子の0.5点選手と同じ動きができれば、もっとチームの強みになるはず」とモチベーションにつなげている。

サッカー神奈川県2部リーグの試合に出場した永里優季(17)=神奈川県厚木市で

 サッカーの永里の移籍は、現時点では個人の挑戦にとどまる。だが「男女の境界をなくしたい」という思いは、男女別が当たり前とされてきたサッカー界に一石を投じたはずだ。思いの根幹には、男女の賃金格差などの問題を訴える米国選手から刺激を受けてきたこともあるという。性差を乗り越えるというより、まずは性別によって待遇などの差が生じないよう、環境面の整備も求められる。

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