【動画】「私が基地に反対する女性だから…」宮古島の前市議が記事削除求め提訴 産経新聞は「名誉毀損に当たらず」

2020年11月25日 21時55分
 沖縄県の前宮古島市議、石嶺香織さん(40)が25日、東京都内で記者会見し、産経新聞に事実と異なる内容の記事をインターネットに掲載されたとして、同社を相手に記事の削除と220万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴したことを明らかにした。宮古島への自衛隊基地建設に反対していた石嶺さんは「産経新聞が自社の思想にそぐわない行動をする議員や市民に社会・政治的影響を及ぼすのを目的に、マスメディアの持つ権力を乱用している」と批判した。一方、産経新聞広報部は東京新聞の取材に「名誉毀損きそんには当たらないと考えている。具体的には裁判の中で主張、立証していく」としている。(望月衣塑子)

会見する石嶺香織さん

◆「月収制限超える県営団地に入居」

 産経新聞の記事は、2017年3月22日付のネット版記事で、「自衛隊差別発言の石嶺香織・宮古島市議、当選後に月収制限超える県営団地に入居」の見出しで掲載された。
 記事は「市によると、市議の月収は約34万円。石嶺氏には1月と2月の給与として2月21日に税などを引いた約62万円が支給された。県営住宅の申し込み資格は、申し込み者と同居親族の所得を合計した月収額が15万8千円以下とされ、石嶺氏は当選前の平成27年度(2015年度)の所得に基づき入居が認められ、今年(17年)2月に入居した」と指摘。

産経新聞の記事(ホームページから)

 「仲介業者が市議の月収を確認し、資格より大幅に上回るため入居するか確認したところ、石嶺氏は『住む所がないので1年だけ入居させてほしい』と答えたという」と書かれている。

◆石嶺さん、取材なく「事実無根だ」

 訴状などによると、16年7月に石嶺さんが県営団地の申し込みをした際、石嶺さん世帯が分類される入居の収入基準(収入から控除額などを引いた金額)は21万4千円だった。石嶺さんの世帯は基準額を下回っており、17年1月6日、県から入所決定の通知が送られ、2月1日からの入居が決まった。その後、石嶺さんは1月22日、市議補選で当選した。
 沖縄県宮古土木事務所によると、市議になった場合でも入居許可は前年の収入で判断されるため、石嶺さんには「市議になっても入居は問題ない。今後、世帯収入が上がった場合は、3年後に収入超過者となり、明け渡しの努力義務が発生する」と伝えたという。
 石嶺さんは、産経新聞の取材を受けていないとし、記事の「仲介業者が市議の月収を確認し…入居するか確認したところ、石嶺氏は『住む所がないので1年だけ入居させてほしい』と答えた」との部分については、仲介業者とそのようなやりとりをいっさいしておらず「事実無根だ」と否定している。

◆産経新聞社「取材に基づくもの」

 これに対し、産経新聞社側は答弁書で「住宅情報センター(県委託の仲介業者)への取材に基づくもの」と主張。石嶺さんと業者とのやりとりについては「補足的な情報にすぎない。この点が仮に真実でないとしても、記事の主要な点が真実であることに変わりはない」としている。
 仲介業者は東京新聞の取材に「コメントできない。県住宅課に聞いてほしい」と回答。同課は「当時の記録が残っておらず、わからない」とする。
 石嶺さん側は、産経新聞社から「記事では、石嶺氏が県営団地に入居の申し込みをしたこと、さらに入居したことを『違法』とは指摘しておりません」「『選良』の職にあり、一定の収入を約束された方が、経済的弱者に住居を提供することなどを目的とする県営住宅に入居されることについて、不正、違法ではないとしても、適切なことなのかどうか。空き室を待っている住民の方も少なからずいると聞きました」などと記した法務室長名の回答書を受け取ったとしている。

◆他に入居の市議は「記事掲載ない」

 ただ、県営団地に居住した市議はほかにもいる。17年10月の市議選では、県営団地に住む男性が立候補し当選。昨年末までの2年1カ月、同団地に住んでいたが、男性は東京新聞の取材に「産経新聞の取材は受けたことがなく、自分についての記事も掲載されていない」と話した。

◆自宅駐車場に鉄柱のついたブロック

 ネットへの記事掲載後、石嶺さんは嫌がらせや中傷を受けた。
 石嶺さんによると、掲載直後の17年3月22日夜には、石嶺さんの団地の駐車スペースに鉄柱がついたブロックが置かれているのが見つかった。何らかの機材を使って運ばれた可能性があり、警察に被害を相談。男性の警察官が2人がかりでブロックを引きずり出したという。

記事掲載の直後、団地の石嶺さんの駐車場スペースに置かれていたブロック(石嶺さん提供)

 記事は他のニュースサイトでも引用され、ネットでは「議員辞職当然だな 詐欺罪で逮捕も視野」「収入を偽っての入居は、議員辞職に値しますか」「左翼過激派妄想変態女」「反日で売国奴であり住む家もない」などの中傷の文言が書き込まれた。住民からは現在でも「記事を読み、違法に住んでいたのだと思った」などと言われるという。
 掲載直後、石嶺さんは産経新聞に電話し、担当者を出すよう求めたが「不在」と言われ、17年4月には記事の訂正や文書での説明を求める内容証明を送ったものの、返信は来なかったとしている。

◆会見に伊藤詩織さんも

 石嶺さんは17年3月9日にフェイスブックに「海兵隊からこのような訓練を受けた陸上自衛隊が宮古島に来たら、米軍が来なくても絶対に婦女暴行事件が起こる」などと投稿。後日に謝罪し、削除したが、同月21日には市議会が辞職勧告決議案を可決。石嶺さんは同年10月の市議選で落選した。この間、産経新聞は石嶺さんについて、県営住宅入居の件も含めて6本の記事を掲載している。
  石嶺さんは25日の記者会見で「小さな島の市議を執拗しつように攻撃したのは、私が自衛隊のミサイル基地建設に反対し当選した市議で、女性だったからだ。産経新聞社は、事実を検証し伝えるというマスメディア本来のあり方に立ち戻ってほしい」と訴えた。

会見に駆け付けた伊藤詩織さん(左)と石嶺さん

 提訴に至った心境を「市議でなくなり生活も落ち着きを取り戻す中、裁判を起こしバッシングが再燃する可能性を考えると恐怖心がわき、踏み切れなかった。ネットにはいつまでもデマ記事が消えず、重苦しい気持ちになる。自分が行動しなければ現状を変えることはできないと思い、2年が過ぎた」と振り返った。
 その上で「伊藤詩織さんや大坂なおみさん、MeTooの声をあげる女性たちに励まされた。もうこれ以上、我慢し続ける必要はないし、自分の尊厳を傷付ける相手に堂々とNOと言っていいのだと、声をあげる女性たちが教えてくれた」と明かした。
 会見にはジャーナリストの伊藤詩織さんも駆けつけた。伊藤さんは「一市民がメディアのターゲットにされてしまった。市議も辞め生活が落ち着き、家族もいる中で、大変な負担と覚悟だったと思う。メディアは報じた結果、どのような影響が出るかをよく考えてほしいし、情報を受ける側も記事をどう読むかを考えないといけない」と話した。

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