組織から単独犯 変わるイスラム過激派テロの脅威 パリ同時多発テロ5年

2020年11月13日 05時50分
 130人が犠牲になったパリ同時多発テロから13日で5年を迎えるフランスが、再びイスラム過激派によるテロの連鎖に直面している。組織的な犯行から単独犯が主流になり、未然防止は困難に。2022年に再選を目指すマクロン大統領には、500万~600万人といわれる国内のイスラム教徒と共存しつつ、過激思想をいかに排除していくかの難題が立ちはだかる。(パリ・谷悠己)

最近のテロ頻発を受けて武装警官が入口を警備するバタクラン劇場=11月6日、パリで(谷悠己撮影)

◆若者がSNS通じて過激思想に心酔

 「5年前から脅威は減るどころか増す一方だ」。先月16日に中学校教師が首を切断されて殺害されたテロ事件が起きたパリ郊外コンフランサントノリーヌのローラン・ブロス市長は本紙の電話取材に憤った。
 仏政府は5年前、中東からの帰国者ら危険な兆候がある人物の行動を把握するシステムを導入。8000人超が登録されているが、実行犯のチェチェン出身の男(18)は未登録だった。
 パリ同時テロには過激派組織「イスラム国」(IS)が深く関与したが、以降のテロの多くは若い単独犯の犯行。会員制交流サイト(SNS)などを通じて急速に過激思想に染まり、刃物など最低限の凶器で実行に移すため、治安当局の把握が追いついていない。

◆教育現場から抑え込み モスク監視も強化

 殺害された教師は表現の自由の授業でイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を紹介していた。事件後、公立校では一斉に黙とうがささげられたが、仏教育省によると、被害者を侮辱したり黙とうを無視したりした生徒の問題行動が全国で400件以上、確認された。
 マクロン氏は、過激化の兆候ともいえるイスラム系若年層のこうした発想の背景に「一部の家庭内教育の影響がある」として、政府が認可した幼稚園や学校への通学を義務化し、モスクの監視を強化する新法案を12月9日の閣議に提出すると発表した。
 仏メディアによると、マクロン氏がこの日付を選んだのには意味がある。1905年の同日、王政時代に強大な権力を持ったカトリックを抑制する目的で政教分離法が施行された。115年の時を経て、国内第二宗教として台頭したイスラム教を過激思想と結び付かせないための新法だとPRし、右派の野党勢力から受け続けてきた「テロ対策が甘い」との批判を払拭する狙いがあるとみられる。

■広がるイスラム嫌悪 「負の連鎖」の恐れ

 再選に向け、過激派への厳然とした態度を強調したいマクロン氏は殺害された教師の国葬で「表現の自由を守るため、フランスは風刺画をやめない」と発言したが、かえってイスラム諸国で激しい抗議の嵐を巻き起こすことになった。
 この発言の8日後に南仏ニースのカトリック教会で3人が死亡するテロ事件が発生。オーストリアの首都ウィーンでも銃乱射テロが起き、欧州各国が警戒態勢を強化している。
 宗教社会学者のジャンルイ・シュレーゲン氏は、イスラム諸国で反仏運動が起きたことで「仏国民の中に過激派と一般教徒とを混同したイスラム嫌悪が広がり始めている」と指摘。その上で「テロ対策は急務だが、宗教間のひずみが広がらないように配慮しないと、さらなる負の連鎖を生む恐れもある」と訴える。

パリ同時多発テロ 2015年11月13日、パリ中心部のバタクラン劇場やテラス席のあるカフェ、郊外サンドニ地区の競技場が同時間帯に襲撃され、130人が死亡、400人超が負傷した。実行犯9人の一部はシリアから帰国した「イスラム国」メンバーで、フランスによるシリア空爆への報復が動機とされる。実行犯唯一の生存者や共謀などの罪に問われた計20人の初公判は来年1月の予定。

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