テラハ・木村花さんの母「誹謗中傷は犯罪だと分かって」 愛娘の死から5カ月、思い語る

2020年10月24日 06時00分
 フジテレビの人気番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラー木村花さん=当時(22)=が、会員制交流サイト(SNS)での誹謗ひぼう中傷を苦に自ら命を絶ってから23日で5カ月となった。インターネット上では匿名で個人を攻撃する悪質な投稿は今も続く。本紙の取材に応じた母響子さん(43)は最愛の娘を失った悲しみを胸に「自分の大事な人に同じことが言えますか。誹謗中傷は犯罪だと分かってほしい」と訴える。(天田優里)

◆「姿が見えない人に振り回されないで」と励ましたが…

テラスハウスに出演し亡くなった木村花さんについて話す母の響子さん

 番組は、シェアハウスで共同生活を送る男女の人間模様を映す内容。プロレスのコスチュームを巡り、花さんが男性に激怒した場面がネット配信された3月以降、批判する投稿が相次ぎ、花さんは5月23日、東京都内の自宅で急死した。直前に自身のツイッターで「毎日100件近く率直な意見。傷ついたのは否定できなかったから。(中略)愛されたかった人生でした」とつづっていた。
 響子さんが娘の悩みを知ったのは5月中旬だった。「死ね」「消えてくれ」といった匿名の言葉のやいばに、花さんは「自分には生きている価値がない」と思うようになっていた。「花は責任感があり、途中で投げ出すことがしづらい性格。私にもぎりぎりまで相談してこなかった。相当つらかったと思う」。憔悴しょうすいする娘に響子さんは「自分が大事に思う人を大切にすればいい。姿が見えない人に振り回されないで」と励ましの言葉を掛けた。

◆SNS教育、被害相談のNPO法人設立も検討中

 花さんは、響子さんと同じプロレスラーになったことを誇りに思っていたという。当初から響子さんは番組出演を不安視していたが、花さんの「女子プロレスを広めるきっかけにしたい」との思いを尊重した。しかし、番組で「悪役」とされ、罵詈ばり雑言の嵐に悩まされた。響子さんは7月、「花が暴力的な女性のように演出、編集された」として放送倫理・番組向上機構(BPO)に申し立て、審理が進んでいる。

笑顔で写真に収まる花さん(左)と響子さん=提供写真

 響子さんは、花さんの結婚資金として蓄えていた貯金を元手に、花さんを誹謗中傷した投稿者に対する法的措置を準備している。「誹謗中傷を受けた人だけでなく、友達や家族など周囲の人が傷ついている現実を分かってもらいたい」と語る。
 SNS教育の拡充や被害者の相談に取り組むNPO法人の設立も検討中だ。「子どもたちは情報をうのみにしてしまうのではなく、自分で考えて判断できる大人になってほしい。いま花は、優しい世界を望んでいると思います」

◆「匿名の悪意」抑止へ 国はネットの制度見直しを検討

 花さんの死をきっかけに、国は匿名による誹謗中傷の投稿を規制する法整備の検討を進める。インターネット関連の団体でも相談を受け付けるホットラインを設けるなど、「匿名の悪意」の抑止を模索する動きが出ている。
 総務省は、被害者が投稿者を特定しやすくするための制度の見直しを有識者会議で検討。8月に投稿者の電話番号を情報開示の対象として盛り込むように省令を改正した。投稿者の特定に必要な通信記録などを一定期間、プロバイダー(接続業者)などに保存させる仕組みや、投稿者がSNSにログインした際の記録も開示対象に加えるよう検討している。11月に予定されている同会議後に、最終報告書をまとめる方針だ。
 ヤフーやアマゾンジャパン合同会社など18社でつくる一般社団法人セーファーインターネット協会(東京)も、協会のホームページ上に相談窓口「誹謗中傷ホットライン」を開設した。
 相談件数は、設置した6月末~8月末の2カ月で498件に上った。協会は90件の投稿の削除を要請し、うち34件が実際に削除された。協会の担当者は「最近は新型コロナウイルスの感染に関する誹謗中傷の投稿の相談が増えている。引き続き対応していきたい」と話している。

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