オーロラが揺れる極夜の南極点で素粒子追う 日本人の越冬は43年ぶり
2020年9月25日 13時50分
南極点に立つのが夢だった。地球の果てで遠い宇宙からの素粒子を捉える研究を知り、鳥肌が立った。大学では友人に笑われたが、たどり着いた。牧野友耶 さん(31)はニュートリノを観測する国際実験チームの越冬研究員として、オーロラが揺れる極夜 を歩いてきた。日本人の南極点越冬は43年ぶり3人目という。
名古屋大で素粒子宇宙物理学を専攻し、千葉大を経て米ウィスコンシン大の研究チームに参加。昨年11月に南極点のアムンゼン・スコット基地に赴任した。関わるのは、銀河系外からのニュートリノを観測し、発生源や仕組みを探る「アイスキューブ実験」。巨大な氷床を利用した世界最大のニュートリノ検出器を用いる実験だ。24時間体制の観測と保守が牧野さんの任務で、異常があれば氷点下60度を下回る暗闇の吹雪を歩き、1キロ以上先の観測施設に向かう。
冬季に入る2月中旬から10月下旬は、外部からの助けはない。残るのは天文学や物理学の研究者、基地を運用する隊員の計42人だけだ。修士課程1年で募集を知って以来、牧野さんの頭にはいつも南極点があった。欧州合同原子核研究所での実験で経験を積み、海外ドラマで英語を鍛え、ついに狭き門を突破した。
南極点の風景はユニークだ。日の出と日の入りは年に1度。先週末に日の出があり、今は白夜を迎えた。夏は沈まない太陽の下でのマラソン大会が恒例行事だ。42キロ完走の隊員は、凍り付いた顔を気にもせず笑う。
地球で最も長い、半年続く極夜の冬は、オーロラと天の川が日常だった。神秘的に光る月は太陽のように見えた。この星の果てにあった空は、未知の色であふれていた。
牧野さんの任務は今年11月まで。「南極点に立つと、今でもぞくぞくする。貴重な責任を果たしたい」 (共同、写真はいずれも南極点で=牧野友耶、アイスキューブ/全米科学財団・共同)
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