「大皿避けて」で土佐名物の皿鉢料理ピンチ! コロナ下の提供方法探る

2020年7月2日 13時55分

サバの姿ずし、カニなどを豪快に盛り付けた皿鉢料理。皿鉢は大きい物で直径60センチもある

 「このままでは皿鉢さわち料理文化がなくなるのではないでしょうか?」。高知県西部で仕出し店を営む女性からそんな心配の声が届いた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、皿鉢料理の注文が減っているという。取材を進めると、県内の関係者たちが「土佐の食文化をなくすわけにはいかない」と「コロナ下の皿鉢」を模索していた。
 すし、エビフライ、焼き鳥からようかんまで、大皿にどーんと盛り付けた料理を分け合い、杯を交わす―。皿鉢は高知の宴席での定番スタイルだが…。
 無料通信アプリ「LINE(ライン)」の本紙窓口に意見を寄せてくれた女性によると、皿鉢の注文が多い法事は「三密」を避けるため小規模になり、食事も弁当で対応。外出自粛のあおりで懇親会や歓送迎会もなくなっているという。
 県外観光客の利用も多い高知市の老舗店「土佐料理 司」。皿鉢はカツオのたたきと並ぶ店の売りだが、月平均100枚はあった注文が、今はほぼゼロ。そこで始めたのが皿鉢の県外発送だ。小分けにして冷凍した料理を送り、盛り付けも楽しんでもらう試み。伊藤範昭総調理長(55)は「生ものを入れられないのは残念だが、納得いくものができた」。担当者は「高知に来たいけど来られない人に食べてほしい」と売り込む。
 大人数の宴席を控える風潮がある中、南国市の「岡林仕出し店」は4月、2人分の「ミニ皿鉢」を発売。大皿より一回り小さい直径30センチの使い捨て皿に、魚卵や貝、フライや巻きずしなど約20品がもりもりだ。皿鉢と言えば1万数1000円が相場だが、ミニ皿鉢は3000円。「こんなに入っちゅうが?」と客も驚くお得感もあり、300枚近く売れたという。

小皿に盛った「皿鉢風」料理の試食会=高知市上町2丁目の城西館で

 店主の岡林立身さん(47)は「店の名前を知ってもらって、次は普通の皿鉢を食べてほしい」と話した。
 店側は高知の皿鉢文化を残そうと懸命だが、政府の専門家会議は「新しい生活様式」でこんな実践例を示している。
 「大皿は避けて、料理は個々に」「多人数での会食は避けて」
 「皿鉢NG」を宣告するかのような文言。これでは、宴席が復活しても皿鉢の出番は少なくなる。
 6月23日、高知市のホテル「城西館じょうせいかん」で浜田省司知事や県議ら100人が宴会を催した。座席の間を空け、献杯・返杯を自粛。「新しい生活様式」にのっとり、県民に「対策すれば大丈夫」とアピールする狙いだった。皿鉢料理の代わりに卓上に並んだのは、料理を小分けした小皿を大皿に載せた「皿鉢風」の料理。取りばしを使い回さないための工夫だという。
 藤本正孝社長(66)は「味気なさもある」としながらも「感染防止との折り合い、皿鉢の原型をどう残すかを考えた」と強調する。
 皿鉢の“生き残り”へ、あの手この手の工夫は続く。ただ、コロナにかかわらず県民が皿鉢を食べる機会は減っているよう。
 県内の郷土料理を紹介した「土佐の味 ふるさとの台所」の復刊を手掛けた畠中智子さん(61)=高知市=は今も毎年、正月に皿鉢を手作りして家族で食べている。「皿鉢はもともと身内で食べるもの」として、こう提案する。
 「コロナで外食を控えるよう言われる今こそ、地元の私たちが皿鉢を食べ、その良さを見直す機会にすればいいのでは」 (高知新聞)

◆東京の土佐料理店はテークアウト、宅配で工夫

 東京都内の土佐料理店もコロナによる影響を受けている。「土佐料理 司」が銀座や赤坂など都内5カ所で展開する「祢保希ねぼけ」では、テレワークの導入が進んだ3月以降、会食や接待の予約が激減。営業再開後の今も皿鉢料理の注文はほぼ無い。5月からは新たに、皿鉢料理のテークアウトを始めた。
 料理を盛り付ける九谷焼の大皿は、陶器風のプラスチック製を用意。名物のカツオのたたきも含め、店で出す料理をそのままに、皿鉢1枚(3~4人前)1万2000円から販売している。自宅でのお祝い事などに需要があるといい、週末を中心に出ているという。「せっかくなので華やかな料理を」と、オンライン飲み会用の注文もあった。
 広報担当の小林沙雪さんは「皿鉢料理を家庭で楽しんでもらえるよう、テークアウトや宅配などで工夫して届けている。伝統的な形をなるべく崩さず、土佐料理文化を伝えていきたい」と話した。(奥野斐)

 皿鉢料理 江戸時代からあるとされる土佐の名物料理。直径40センチほどの大皿にさまざまな料理を盛り付けた「組物くみもの」と、刺し身を盛り合わせた「なま」が基本。皿の大きさや料理に厳密な定義はない。土佐料理研究家の故宮川逸雄さんは、著書で皿鉢が廃れない理由として、宴席で入り乱れて杯を差すのが好きな県民性や、参加人数が変わっても融通が利くことを挙げている。

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