「密」の合戦シーン どう描く 「麒麟がくる」長期休止、月末撮影再開へ

2020年6月13日 07時58分

「麒麟がくる」休止前最後の第21話より。主演で明智光秀役の長谷川博己

 NHK大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」が、新型コロナウイルスの影響で撮影中断が続き、七日放送分を最後に休止に入った。長期休止は大河史上初で放送再開は未定。十四日から“麒麟がこない”日曜がやってくる。NHKは今月末に撮影再開の予定だが、気掛かりなのは大人数が入り乱れる合戦シーンの撮影。ポストコロナでは、戦国大河の“華”ともいえるダイナミックなシーンはもはや撮影不可能なのでは? 大河OBや事情通らに聞いた。 (原田晋也)
 「出演者同士の距離は、基本的に二メートルを守る。二メートルを越えて接近する芝居は限定的に行い、出演者の同意を得る」。NHKが公表した感染防止用ドラマ制作マニュアルの一部だ。「原則的対策」との位置付けで、できない場合は次善の策を検討し、専門家の助言を受けて実施や中止を決めるという。
 一世を風靡(ふうび)した「独眼竜政宗」(一九八七年)で演出、「秀吉」(九六年)で制作統括を務めたOBの西村与志木は「二メートル以上の距離を保ちながらでは立ち合い(殺陣)や合戦は成立せず、芝居を続けていくのは不可能。新しい形式のドラマはできるかもしれないが、大河ドラマではありえない」と厳しい見方を示す。
 戦国大河の合戦シーンについて「合戦そのものにドラマはないが、見る人は期待しているので絶対的に必要」と強調する。「屋外での撮影はそれほど心配ないと思うが、心配なのはスタジオでの密集シーン、戦闘シーン。相当気を付けて対策せざるを得ないだろう」

「独眼竜政宗」より。伊達政宗役の渡辺謙

 放送スケジュールの乱れが予想されるが「通常の事態に戻っていくと想定され、感染対策も永久には続かない。収録は放送開始の半年以上前に始めるので、二〇二二年くらいまでは影響が出ても、長期的に見れば必ず元の形に戻っていくだろう」と希望も語った。
 大河ドラマに詳しいコラムニストのペリー荻野は、派手な合戦シーンがほぼなかった「おんな太閤記」(八一年)を例に挙げ、「人間ドラマだけで戦国を描ききった作品があるわけだから、やりようはある」と工夫の余地を語る。技術面での可能性にも触れ「戦国の戦シーンはどこまで人間で、どこまで技術でやるかという加減の時代になっている。人間同士の戦が撮れなくても、世界にも胸を張れる技術を持つNHKは最新のVFX(視覚効果)技術でフォローできる」。

「国盗り物語」より。主演で斎藤道三役の平幹二朗(右)と濃姫(帰蝶)役の松坂慶子

 制作現場の気概にも信頼を寄せる。「『龍馬伝』(二〇一〇年)では、ほこりっぽさを出すため、CGではなくスタジオにコーンスターチをまいていた。それまでの方法を変えなければならないとなれば、考えに考えて、ありとあらゆる工夫をしてくるだろう」
 脚本家はどう考えるのか。「独眼竜政宗」「八代将軍吉宗」(九五年)、「葵 徳川三代」(二〇〇〇年)と、名作大河を手掛けてきたジェームス三木は「大した問題じゃない。絵でも、将棋の駒でもいい。一部を見せて『大合戦がありました』だけでいい」と言い切る。「(ドラマを)見たい人は、なんで見るのか? 人間の本当を見たいからだろう」
 「テレビはどんなに大きく撮っても、映画に比べて画面が小さい。テレビドラマは役者のちょっとした動きから何かを感じるものだ」と論じ、「合戦シーンというのは、本当はみんな戦っているところを見たいわけじゃない。『こいつ、隠れようとしているな』『あいつ、裏切るんじゃないか』とか、人間関係を見たい。(役者が)しゃべらないことを感じさせる、せりふや呼吸が面白いんだ」と語った。

「利家とまつ」より。主演で前田利家役の唐沢寿明(右)とまつ役の松嶋菜々子

 ◇ 
 NHKは四月から休止していた「麒麟がくる」の収録を、今月三十日から再開すると発表。放送再開時期は状況を見ながら判断するという。放送休止中の大河ドラマ放送枠では「麒麟がくるまでお待ちください 戦国大河ドラマ名場面スペシャル」と銘打ち、過去の人気戦国大河の名場面集を放送する。十四日は「独眼竜政宗」、二十一日は「国盗(と)り物語」(一九七三年)、二十八日は「利家とまつ」(二〇〇二年)。
 NHK大阪放送局は杉咲花(22)主演で今秋スタート予定の連続テレビ小説「おちょやん」の収録を二十二日の週から再開すると発表した。四月二日に開始したが、新型コロナウイルス感染防止のため同七日から休止していた。
 子役らによるロケ撮影から再開する予定。具体的な放送開始時期については「収録の状況を見ながら判断する」とした。

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