歌舞伎町で歌舞伎! 実は戦後に劇場計画、町名の由来 勘九郎さんら5月に公演

2024年3月15日 07時07分

公演に向け、歌舞伎町をイメージしたポーズで写真に納まる(左から)中村鶴松さん、中村七之助さん、中村勘九郎さん、中村虎之介さん=都内で

 新宿・歌舞伎町に5月、歌舞伎公演がやってくる。中村勘九郎さん(42)、七之助さん(40)兄弟らによる「歌舞伎町大歌舞伎」だ。地名に「歌舞伎」を冠しながら専用の劇場はなく、一見ゆかりのなさそうな「眠らない街」。だが、歴史をひもとくと、浅からぬ因縁があった。
 歌舞伎町には、歌舞伎の劇場が建てられるはずだった。新宿区文化観光課の学芸員、北見恭一さんによると、今の歌舞伎町の一帯はもともと角筈(つのはず)1丁目や東大久保3丁目と呼ばれ、戦時中に空襲で焼け野原になった。終戦直後に復興協力会を組織した角筈1丁目北町会の鈴木喜兵衛会長(故人)は、銀座と浅草の良さを取り入れた庶民的娯楽センターをつくろうと構想。歌舞伎の劇場、映画館、演芸場、ダンスホールを建設する計画を立てた。

多くの人が行き交う歌舞伎町=新宿区で

 区画整理が終わった1947年、鈴木会長が都に新たな町名を相談。中心に歌舞伎の劇場をつくるなら「歌舞伎町」がいいだろうと、翌年命名された。ただ、戦後混乱期の財政事情などにより計画は頓挫。56年に新宿コマ劇場や映画館・新宿ミラノ座は開場したが、歌舞伎の劇場は実現しなかった。それでも、町名はそのまま定着したという。

「THEATER MILANO-Za」が入る東急歌舞伎町タワー=新宿区で

 現在、歌舞伎町といえばアジア屈指の繁華街。「人間の欲や野望が渦巻く場所。歌舞伎に合っていて、いつかやりたいと思っていた」と勘九郎さん。2019年には中村獅童さん(51)がイベントホールを利用して歌舞伎を上演した。今回は、東急歌舞伎町タワー内の劇場「THEATER MILANO-Za」で、5月3日から約3週間、上演される。
 演目は、古典の舞踊作品「正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)」と「流星」に加え、落語「貧乏神」を下敷きにした新作歌舞伎「福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)」。勘九郎さんらは渋谷の「コクーン歌舞伎」で古典作品を新たな演出で解釈し直し、現代の観客に投げかけてきた。今回は「歌舞伎町という特殊な場所で、歌舞伎の底力をぶつけたい」と、舞踊は歌舞伎座(中央区銀座)などの「ホーム」と変わらぬ演出で挑むという。
 「福叶…」の脚本は、「貧乏神」を作った落語作家の小佐田定雄さん(72)。もとの落語では貧乏神は男性だが、歌舞伎では「おびん」という女性。中村虎之介さん(26)演じる大工辰五郎に取りつくが、なかなか貧乏神の思い通りにはいかない。主演の七之助さんは「初めて歌舞伎を見るお客さまも多いと思う。面白いと思ってもらい、歌舞伎座や新橋演舞場に足を運ぶきっかけにもなれば」と力を込めた。
 外国人観光客も行き交う歌舞伎町。歌舞伎の上演がこの先も続くかはまだ分からないが、観光振興の面でも期待は高まる。北見さんは「これまで伝統芸能との縁が薄かった。歌舞伎が見られるなら、さらなるPRにもなる」と先を見据える。

<歌舞伎町大歌舞伎> 5月3~26日(9、20日休演)。中村鶴松さんと、勘九郎さんの息子の勘太郎さん、長三郎さんも出演。1等席1万3500円など。チケットは3月24日発売。問い合わせはチケットホン松竹=電0570(000)489=へ。

 文・林朋実/写真・木口慎子、林朋実
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