<中村雅之 和菓子の芸心>「古鏡」(山形県鶴岡市・木村屋) 鏡は異界を映し出す

2024年3月8日 07時28分

イラスト・中村鎭

 「三種の神器」の八咫鏡(やたのかがみ)のように、鏡がご神体になっている神社は多い。「鏡」といっても、今のガラス鏡ではなく、銅鏡。銅を研磨して錫(すず)メッキをした後、再び研磨して仕上げる。
 古代の人々にとって鏡は不思議な存在だった。今では科学的に説明できる事でも、古代の人々には、なぜなのか解(わか)らない事ばかりだった。解らない事は不安だった。その不安を取り除くために神の存在を信じた。
 鏡もなぜ映るのか解らず、不思議だった。そこに、神秘を感じ、神と結び付けたのだった。
 庄内平野の背後に連なり、修験道の霊山として知られる「出羽三山」の一つ羽黒山の山頂にある出羽三山神社の境内に「鏡池」と呼ばれる池がある。池は、神そのものとも考えられ崇(あが)められた。その名の通り、周りの木々が、鏡のように映り込む。
 この池の底からは、平安時代から江戸時代中期までの銅鏡、数百面が発見されている。
 銅鏡は「古鏡(こきょう)」とも呼ばれる。これに因(ちな)んだ和菓子が「古鏡」。きんつばのようにも見えるが、表面は砂糖が固まりさくさく、中の粒餡(あん)はしっとりしていて、真ん中に求肥が入っている。
 鏡は、異界を映し出すとも考えられていた。奈良の春日野を舞台とした能「野守」では、天界から地獄の底までもを映し出す鏡を持った地獄の鬼が現れる。

「黒川能」の「野守」(黒川能保存会提供)

 鶴岡の郊外、田畑が広がる黒川では、室町時代から、地元の春日神社の祭事の中で、地元の人たちが演じる「黒川能」が受け継がれてきた。
 上座と下座の二つの座があり、それぞれが違う演目を伝えてきた。下座の演目の中に「野守」もある。 (横浜能楽堂芸術監督)

<木村屋(本店)> 山形県鶴岡市山王町9の25。(電)0235・22・4530。6個入り1296円。

 ※「和菓子の芸心」は今回で終了します。来月からは同じ筆者による「足跡を探して」が始まります。

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