<中村雅之 和菓子の芸心>「梅ヶ枝餅」(福岡県太宰府市・かさの家) 天神様の伝説秘める

2024年2月9日 07時44分

イラスト・中村鎭

 太宰府天満宮の名物と言えば「梅ヶ枝(え)餅」。天満宮の祭神は、「学問の神・天神様」として知られる菅原道真。道真は、家格が低かったが、その学識を買われ、異例の昇進を遂げ、右大臣となる。しかし左大臣・藤原時平の讒言(ざんげん)に遭い、「大宰員外帥(だざいいんがいのそち)」という閑職に追いやられる。皇族や高位の貴族が、失脚した時に就く職で、事実上の配流だ。

能「老松」の「紅梅殿」(梅若紀彰)=神田佳明撮影

 罪人扱いだった道真の大宰府での生活は悲惨なもので、食べる物にも事欠いたとされる。それを見かねた近くの老尼が梅の枝に餅を挿して差し入れた、と伝えられる。
 この伝説をもとに、いつの頃からか生まれたのが「梅ヶ枝餅」。うるち米ともち米を混ぜた生地の中に小豆餡(あん)を入れた素朴な焼き餅。型に神紋の梅紋が入っていて、焼けると浮かび上がる。30軒もある店の中で、よく知られているのが「かさの家」だ。
 道真は、失脚から2年後に大宰府で亡くなる。遺骸を乗せた牛車を引く牛が、途中で動かなくなったことから、道真の意思とみて、そこに葬られる。その地が、やがて天満宮と神仏習合の安楽寺となる。明治維新の廃仏毀釈(きしゃく)で安楽寺は廃寺となり、天満宮だけが残った。
 能「老松」は、その安楽寺で物語が展開する。都に住む「梅津の某(なにがし)」が、北野天満宮から夢のお告げを受け、安楽寺を訪れる。通りかかった老人と男に、道真を慕って大宰府まで飛んで行ったと伝えられる庭の松と梅の事を尋ねると、それぞれ「老松」「紅梅殿」という名で、末社として祀(まつ)られていると教えられる。後半は、「老松」が老体の神として現れ神々しく舞う。「紅梅殿」の小書(こがき)(特殊演出)が付くと、「紅梅殿」も女神として現れ優雅に舞う。
 毎年、本殿の前の「飛梅(とびうめ)」が花を咲かせ、春を告げる。 (横浜能楽堂芸術監督)

<かさの家> 福岡県太宰府市宰府2の7の24。(電)092・922・1010。5個入り750円。


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