茨城県内唯一 石岡の専門学校ルポ 理容師は「AI時代残る職業」 理髪店経営20年で半減…近年は利用増加

2024年2月8日 07時58分

県内で唯一理容科のある茨城理容美容専門学校=いずれも石岡市で

 茨城県内唯一の理容師の学校「茨城理容美容専門学校」が、石岡市にある。終戦直後の1946年に設立され、70年までは卒業生が100人を超える人気だったが、定員24人の理容科(2年制)の卒業生は22年度はわずか2人に。理髪店と美容室の違いが意識されなくなり、格安、短時間で髪を切るチェーンの理髪店が台頭するなど厳しい状況の中、理容師を目指す学生の思いを聞いた。(青木孝行)
 「人工知能(AI)時代に、将来も残る職業だと思うので理容師になることを決めた」。鉾田市出身の2年、真家依吹(まいえいぶき)さん(20)は進路選択の理由をそう話す。就職先は画像共有アプリのインスタグラムで探し、オーナーがカットの技術力で定評がある宇都宮市の店に決めた。

マネキン人形で頭髪カットを練習する学生

 ヘッドマッサージの練習をしていた筑西市出身の1年、増渕真成斗(まなと)さん(19)は、雑誌や動画投稿サイト「ユーチューブ」を見て、短髪にあこがれて理容師の道に。「年齢に関係なく長く続けられる仕事なので」とも。
 家業を継ぐために理容師を目指す学生もいる。行方市出身の2年、高橋なつみさん(20)の実家は、祖母と両親が店を経営している。「理髪店は男性のイメージが強いので、女性でも入りやすくしたい」と高橋さん。実家の店では顔そり後にエステができるように工夫。お茶だけ飲みに来る常連客もいるなど、地域の人たちにとって気軽に立ち寄れる場所になっているという。
 理容業者でつくる県理容生活衛生同業組合によると、県内で店を営む会員は03年に約2500人いたが、23年は約1300人とほぼ半減した。
 一方で、明るい兆しもあり、10年ほど前から理髪店を選ぶ若者や女性が増え、利用者が増加傾向という。組合の水戸支部長の飯野高嗣(たかし)さん(57)によると、最近は首筋から頭頂部をバリカンでグラデーションをつけながら刈り上げる「フェードスタイル」や、キノコのような髪形「マッシュヘア」が若者に好まれている。高いカット技術を求めて訪れる女性客もいる。
 飯野さんは「新型コロナが感染拡大する前から、衛生面には力を入れてきた。バリカンやカミソリの技術力もある」と、理髪店の強みをアピールした。

◆客離れ、スマホも要因? 短時間カット「好都合」

 理髪店が減少した背景の一つに、美容室を利用する男性客の増加が挙げられる。理美容業界の動向に詳しい甲南女子大(神戸市)の原田隆司教授(66)=社会学=は、客離れの別の要因として「スマホの普及が影響している」と指摘する。
 理容業界では格安、短時間を売りにするチェーン店が人気で、原田教授は「スマホ画面に夢中な若者にとって、10分で髪を切ることができる店は好都合」と話す。一般的な理髪店では理容師と1時間近くコミュニケーションすることが多いが、「それをしなくて済むので、積極的に理容店に行く理由がなくなった」。
 原田教授によると、理髪店の経営は通常、常連客が2カ月に1回来店するのを前提とし、地域に500人の顧客が必要になる。これからの店づくりでは「男性向け雑誌を置くようでは客は集まらない。コミュニティーの中で、出入りしやすい開放的な空間をつくることが必要だ」という。
 そのうえで原田教授は「髪も切るけれど、他に何か楽しいことがあるといった条件がそろえば客が集まる可能性はある」と話し、コンビニやファストフード店などと複合した理髪店を提案した。(青木孝行)

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