<被災者をまもる>今後の心のケアは 不安、孤立感 出やすい時 精神医療チーム・平沢克己さんに聞く  

2024年2月2日 07時23分

被災地での活動について打ち合わせする平沢さん(右)=石川県七尾市で(本人提供)

 甚大な被害が出た能登半島地震では、今後、被災者の心のケアがより大切になっていく。災害派遣精神医療チーム「DPAT」の一員として、東日本大震災や熊本地震の被災者を支援し、今回も石川県穴水町で活動した愛知県精神医療センターの副院長・平沢克己さん(57)に、被災者の心の状態や周囲が心掛けたいことを聞いた。 (佐橋大、植木創太)
 -避難所は、どんな状況でしたか。
 私が1月上旬に訪れた避難所では、地域コミュニティーの力が強いと感じた。避難してきた人が多く、でも物資は少ない中で、顔見知りの住民同士がうまく助け合っていた。気持ちが高まる、いわゆる「ハネムーン期」だった。
 1カ月たち、今は過労、慣れない場所での生活、生活の基盤の喪失と、さまざまなストレスが蓄積し、眠れなくなったり、不安が強くなったりといったことが目立ってくる時期だろう。
 -2次避難の影響は。
 住み慣れた所から離れることは大きなストレス。受けられる支援も違いが出てくる。ニーズに合った支援を受けられず取り残されたと感じる人も出るだろう。受けられても「自分ばかりいいのか」と思う人もいるだろう。心情は複雑だと思う。
 -被災者への助言を。
 大きな災害の後、「ハネムーン期」になり、その後落ち込んで疲れてしまう「幻滅期」に入っていくのは、ある意味正常な反応で、誰にでも起こりうること。自分を責めないでほしい。
 親しい誰かとつながって話すのは有効。公的な機関の支援者や電話の相談窓口などで話すのもいい。第三者だから語れることもある。

◆決めつけないで 寄り添う姿勢で

 -被災者に接する際、心掛けたいことは。
 被災者は、全く想像もできないような経験をしたという前提に立つこと。こちらが何かを押しつけたり、助言をしたりせず、寄り添う姿勢で話を聞くべきだ。
 ボランティアなど支援側は、何かをしてあげたいと普段より過活動になりがちだが、逆に被災者を苦しめる。といっても、遠巻きに見ていればいいのかというとそうではない。被災者の心のケアの観点では、孤立は良くない。
 -どんな声かけがよいでしょうか。
 例えば、明らかに疲れ切っているのに「大丈夫」と支援を遠慮する人には、「私はあなたを心配しています。困ったことがあれば連絡してください」と伝えてみるのもいい。人には相談するタイミングがある。助けたいという気持ちを伝え、被災者が話したい時期に話を聞くのがいい。
 被災者が「眠れない」「強い不安を感じる」などと語った場合は、心のケアの相談窓口を紹介し、精神保健のチームへの相談を呼びかけてもらえれば。支援が必要そうな人がいるとチームに連絡してもらえると、ありがたい。

◆今つらい思いをしている被災者の皆さんへ 大阪人間科学大特任教授・岩井圭司さん 

 阪神大震災の時から、被災者の心のケアに携わってきました。不眠や食欲不振などの症状があっても、被災者は「自分は大丈夫。災害に負けない」と思いがちです。心の病気だと思われたくない人もいるでしょう。けれども、災害後に普段と違う心の状態になることは自然なことです。
 つらい時に、自分なりに症状が和らぐ手段を実践するのもいいです。冷たい水を飲む▽手首に巻いた輪ゴムをはじく▽車の中で大声を出す▽吐く息を意識してゆっくり呼吸する-など、いろいろあります。肩回し運動でもいい。ちょっとした運動で、自分の体の状態が良くなると実感できれば「自らの行動で自らの状態が変わる」と経験でき、災害で感じている無力感を打ち消すように働きます。
 ただ、そうした努力をしても、思い出したくない記憶が何度もよみがえり、眠れなかったり食欲がなかったり、冷や汗が出たりする人もいるでしょう。これは心的外傷後ストレス障害(PTSD)の状態です。
 何度も繰り返し恐怖を感じるトラウマ(心的外傷)を負った人のうち、数%がPTSDになりますが、その半数は3~6カ月で自然に回復します。話したい時に被災経験を話すことはトラウマの潜在化を防ぎ、心の回復につながります。安心して不安を語れる場が必要です。
 一方で、症状が重く、長引くリスクの高い人は、精神医療チームなどによるサポートが必要。自分を責めずに必要な治療やケアを受けてほしい。無理に平静を装う人もいれば、自分を守るため、つらい記憶を一時的に忘れる人もいます。周囲の人は気付きにくいものですが、的確に把握して医療につなぎ、息長く支援してほしいと願います。

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