落ちそうで落ちない巨岩上の仏塔、ミャンマーの聖地「黄金の岩」に観光客は戻るのか
2023年11月29日 17時00分
ミャンマー東部モン州にあるチャイティーヨー・パゴダ(ゴールデンロック)は、標高約1100メートルの山頂の断崖に落ちそうで落ちない黄金の大岩が鎮座し、その上にパゴダ(仏塔)が建てられている。ミャンマーの仏教徒が憧れる巡礼地であり、海外からも観光客を引きつけてきたが、新型コロナウイルス禍や2021年の軍事クーデター以降は訪れる人が激減した。11月中旬、タイ人の巡礼者たちに交ざって現地を訪れた。(ミャンマー・モン州で、藤川大樹、写真も)
◆あちこちに土のうやタイヤ、検問所で足止め
最大都市ヤンゴンから観光バスに乗り、モン州へ向かった。ヤンゴンなどの都市部は国軍が支配を固めており、戦闘の気配はないが、幹線道路では民主派武装勢力の襲撃に備え、あちこちに土のうやタイヤを積み上げた防御設備があった。
検問所でたびたび足止めされ、自動小銃を構えた警察官らが積み荷や乗客のパスポートなどを確認。運転手から折り畳んだチャット札をこっそり受け取る様子も見られた。通行の便宜を図ることへの賄賂とみられる。約2時間後、チャイティーヨー・パゴダがある山の麓に着いた。
山頂までは険しい山道が続くため、荷台を客席に改造したトラックに乗り換える。途中、停留所で何度か停車し、そのたびに住民や僧侶から寄進を求められた。山頂へ延びるケーブルカーは稼働していなかった。
◆1年前には民主派と軍の銃撃戦も
トラック乗り場では昨年10月、民主派武装組織「国民防衛隊(PDF)」、モン州と隣接するカイン州の少数民族武装勢力「カレン民族解放軍(KNLA)と国軍との間で銃撃戦が起き、数人の巡礼者が犠牲となった。案内役からは「軍や警察の関連施設の写真は撮らないで」と念を押された。
山頂付近に到着すると、多くの物売りたちが押し寄せてきた。中には「タダだから」と木製の首飾りを無理やり押しつけ、ずっと後をついてくる子どもも。1000チャット(実勢レートで45円程度)札を渡すと、ようやく離れていった。巡礼者や観光客が少なくなり、物売りの実入りも大きく減ったという。
チャイティーヨー・パゴダは、今にも転げ落ちそうに見える金箔(きんぱく)の大岩の上に、高さ約7メートルのパゴダが建てられている。パゴダの中には仏陀(ぶっだ)の遺髪が納められているとされ、岩が落ちないようにバランスを取っているといわれる。
巡礼者たちは未明からはだしで参道を歩き、大岩へと向かう。果物やご飯、飲み物などがきれいに盛り付けられた供え物をささげ、ひざまずいて手を合わせる。女性は大岩に触ることができない。
◆歩く隙間もなかったのに…今は閑散
今回は休暇を使ってバンコクから訪れたが、ほかに外国人観光客の姿はほとんど見かけなかった。20年近く観光ガイドを務めるタイ人の男性(38)は「コロナ禍前は多くの巡礼者であふれ、参道を歩くスペースがないほどだった」と振り返る。かつては付近のホテルは遠方からの巡礼者で埋まり、参道に毛布で寝る人もいたという。しかし現在はホテルや土産物を売る仲見世は閑散としていた。
パゴダは、仏陀入滅後の遺骨を納めた舎利塔で、ミャンマーでは「パヤー」と呼ばれる。ヤンゴンにある黄金のシュエダゴン・パゴダなどが有名で、観光名所になっている。
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