塚本晋也監督 映画「ほかげ」25日公開 闇市に生きる 戦争ひきずる市井の人たち

2023年11月23日 07時48分
 大岡昇平の小説を映画化した「野火」(2014年)で戦場のリアルをスクリーンにたたきつけた塚本晋也監督(63)の新作「ほかげ」が25日、公開される。戦争をひきずりながら戦後を生きる市井の人たちを見詰めた作品で、塚本監督は「闇市の世界に迫ろうとした」と思いを語る。(石原真樹)
 塚本監督が幼いころ、渋谷駅近くのガード下に傷痍(しょうい)軍人が敷物の上でがらくたのおもちゃを売る一角があった。母に連れられて祖父の家に行く途中に見た光景が「原風景のように頭から離れない」という。「高度成長期にどんどん町がきれいになっていくのに、そこだけ取り残されていた」。ほの暗さと生きるエネルギーが混在する闇市とのつながりを感じ取り、いつか映画化したいと思っていた。
 物語は小さな居酒屋で始まる。売春して生きる女(趣里)は、店に流れ着いた復員兵(河野宏紀)と孤児(塚尾桜雅)と、家族のように暮らし始める。つかの間の幸せと悪夢にうなされる夜の末、復員兵は去り、孤児も片腕の動かない男(森山未来)を手伝うため姿を消す。

「ほかげ」から ©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

◆戦場あえて描かず

 当初は森山が演じる男のようなぐれん隊の群像劇の構想もあったが、戦争孤児に闇市で強く生き延びてほしいとの願いも込め、膨大な資料を読み込んで「じーっと考えて」脚本を練り上げた。戦場や空襲の描写はあえて省いた。「大きな映画ではなく、ちっちゃなところに目を凝らし耳を澄ますことで、今まで聴けなかった声が自分に届くと思った」と語る。
 NHKの朝ドラ「ブギウギ」で明るいヒロインを演じる趣里が、名前すらない女を憑依(ひょうい)したように怪演する。「体から鋭敏なアンテナが出ている方。声に母性を感じさせ、素晴らしい表情を見せてくれた」。謎の男役の森山も狂気がほとばしるようで存在感を放つ。

◆「今作らないと」

 「野火」、人を殺すことの恐ろしさを問う「斬、」(18年)と、戦争や暴力をテーマにした作品が続く。「戦争は嫌だとの思いは昔からあったが、世の中が不安になり、恐ろしさが実感を伴ってきた。今作らないと」。来年はさらに大作に取りかかる。「寝ぼけた頭に鉄槌(てっつい)を下すような作品になる」と決意を込めた。

関連キーワード


おすすめ情報

芸能の新着

記事一覧