決め手は「QRコード」 都営地下鉄、ホームドア設置もうすぐ100%に 車両改修費20億円→270万円

2023年10月21日 03時00分
 東京都営地下鉄の駅のホームドア設置率が来年2月までに100%になる。4路線のうち、多くの私鉄が乗り入れる浅草線が最後の難関だったが、スマートフォンでおなじみの技術を生かし、数十億円と見積もられた車両改修費を抑え、低コストで全駅設置にこぎ着けた。その技術とは―。(三宅千智)

◆ドアのQRコードをカメラで読み取り

 10月上旬、都営浅草線中延駅(品川区)のホームに立った。ホームドアの向こう側に列車が滑り込む。列車のドアガラスには16センチ四方のQRコードが見えた。
 列車のドアが開き、同時にホームドアも開いた。視線をホームドアから天井に向けると、横長のバーに小さなカメラが三つ。このカメラがドアガラスのQRコードを読み取り、ホームドアを作動させるという。

上部に吊り下げられたカメラで列車のドアのQRコードを読み取り、制御されているホームドア=東京都品川区の都営浅草線中延駅で

 都交通局によると、約100駅ある都営地下鉄は2000年からホームドア化を進め、19年度までに三田、大江戸、新宿の3路線で整備を終えた。だが、残る浅草線は、相互乗り入れする京急、京成、北総、芝山の4線の各社と費用面がネックになり合意できず、計画は暗礁に乗り上げた。ホームドアの主流は電車とホームに無線装置を付ける仕組みで、車両改修費は1編成当たり数千万円に上るからだ。
 浅草線に乗り入れる列車は6両や8両編成、2ドアや3ドアなど仕様が異なり、ホームドアの開閉場所を車両ごとに変える必要があった。低コストで対応できるシステムを検討していた交通局が、目を付けたのがQRコードだった。

◆ステッカーは剝がれにくい材質に

 列車ごとに編成車両数やドア数などの情報をコードに入れ、ホーム側のカメラで読み取れば、必要なホームドアを開けることができる。車両の改修費だけでみれば、コストは約20億円から、QRコードステッカー代の約270万円へと減った。ステッカーは車いすのマークなどと同様、剝がれにくい材質になっている。

吊り下げられたバーに取り付けられた列車ドアのQRコードを読み取るカメラ=東京都品川区の都営浅草線中延駅で

 都交通局は15年、QRコードを生み出したデンソーウェーブ(愛知県)と共同で鉄道専用QRコードなどの開発に乗り出した。各社の同意も取り付け、19年度から浅草線のホームドア整備を開始。来年2月までに完了する見通しとなった。
 都営4路線では転落事故が12年度の69件から、22年度はホームドアのない浅草線の2件へと激減した。交通局で開発に携わった岡本誠司さん(63)は「事故がなくなることにつながるのは感慨深い」と語る。

 QRコード 数字や英字、漢字など大容量の情報を、縦横2次元の白黒の組み合わせで表現する。自動車部品大手デンソー(愛知県)が1994年に開発し、子会社のデンソーウェーブが関連業務を引き継いだ。QRは「素早い反応」を意味する「クイック・レスポンス」に由来する。

  ◇

◆都内全体の設置率は「5割」…課題は何なのか

 都内の駅でホームドアの設置は進んでいるとはいえ、設置率は5割にとどまる。背景には工事の難しさや原材料不足があるとされる。転落事故の不安を抱える視覚障害者からは、整備促進を求める声が上がる。
 都の集計によると、都内758カ所の駅のうちホームドアが整備されているのは51%の391駅(3月末時点)。設置費は1駅あたり数億〜十数億円とされ、ホームが狭い場合には通路幅を確保する大規模工事が必要になるなど課題も多いという。
 各社別ではJRは35%、私鉄36%、東京メトロ90%。東急は、センサーが人を感知すると列車が緊急停止する「センサー付き固定式ホーム柵」も含め、2020年に100%に到達した。東京メトロも25年度までの全駅整備を目指す。
 東京視覚障害者協会(豊島区)の滝修会長(64)は「ホームドアのない駅は、欄干のない橋のようなものだ」と指摘する。自身も線路に落ちた経験が何度もあるという。「慎重に歩いていても、方向や距離を間違えると落ちてしまう。物理的に落ちる心配のないホームドアの設置が進んでほしい」と願う。

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