<Q&A>2024年の春闘「賃上げ5%」で物価高を上回る? そうとも言い切れない

2023年10月20日 06時00分
 労働組合中央組織の連合は2024年の春闘で、賃上げ要求を「5%以上」とする目標を掲げました。物価高から生活防衛をできるかの正念場になります。春闘を見る際の注意点をまとめました。(渥美龍太)

◆岸田首相の「物価高上回る」はミスリード?

 Q 春闘で要求通りに賃金が5%上がれば、前年比で3%余りの物価上昇率を大きく超えますね。
A 要求通りに上がった会社の従業員個人ではそうかもしれませんが、世の中全体で見た場合、そうとは言えません。春闘方針の5%には、年齢とともに給料が上がる定期昇給(定昇)分を含んでいるからです。年度が替われば賃金の低い若手が入社する一方、定年を迎えて給料が激減する人がいるため、実は定昇だけ上がっても国内全体の賃金は基本的に変わりません。このため、定昇分の2%を引いたベースアップ(ベア)分「3%以上」と物価上昇率を比べる必要があります。ただ政府は物価と賃金を比べる時、定昇を含んだ「見かけ上の賃上げ率」をアピールしがちです。
 Q どういうことでしょうか。
A  23年の春闘の賃上げ率は定昇込みで3.6%程度でしたが、岸田文雄首相は9月に米ニューヨークで講演した際に「賃金は物価高を上回る3.5%超の引き上げで労使交渉が妥結」と発言しました。見かけ上の賃上げ率の数字を引用して「物価高を上回る」と述べること自体、ミスリードのような情報発信です。実際に、春闘妥結後の4月以降も賃金は物価に届いていません。実質賃金のマイナスは続いています。

◆大企業に偏る連合の集計は実態とズレ

Q 春闘の賃上げ率を見る際に、ほかにも注意すべき点はありますか。
A 参加者が限られる点です。23年春闘について連合が最終集計の対象とした287万7000人のうち、9割近くは従業員300人以上の比較的大きな企業で働いていました。しかし、日本で働く人の約7割は中小企業に属しており、世の中の実態とズレています。春闘の結果は、未参加の中小零細企業にも波及するとはいえ、世の中全体で同じような水準の賃上げがされるわけではありません。
 デフレと言われた物価の停滞局面に転換の兆しがみられ、先行きの予測も難しくなっています。連合が昨年10月に23年の春闘目標を発表したころ、専門家による23年度の物価上昇予測は1.25%でしたが、その後に上方修正が繰り返されました。今の予測は24年度が2%弱ですが、中東情勢の緊迫化に伴う原油価格の上昇などがあれば、状況は厳しくなります。
 ◇

◆下落続く実質賃金…「ベア分3%以上」の方針

 連合は19日、24年の春闘で、基本給を一律に上げるベアと定昇分を合わせて「5%以上」の賃上げを求める方針を発表した。24年の春闘では、23年の「5%程度」から「5%以上」と、より強い表現とし、持続的な賃上げを目指す狙いだ。

連合の芳野友子会長(資料写真)

 24年春闘の方針を記した基本構想では、内訳としてベア分を3%以上とし、定昇分を含めて5%以上を求めるとした。芳野友子会長は同日の記者会見で「最低ラインとして5%以上は目指していただきたい」と明言し、「(賃上げを)1年で終わらせず、持続的に上げることが重要」と述べた。12月に開く中央委員会で正式決定する。
 賃上げ要求は16年から毎年4%程度としていたが、23年は物価上昇を踏まえて5%程度に引き上げた。ベア分も従来の2%程度を同年は3%程度とした。
 連合が集計した春闘の実績をみると、1999〜2022年の平均賃上げ率は2%前後で、23年は3.58%と30年ぶりの高水準だった。芳野会長は「今年以上の結果が出るよう取り組みたい」と述べた。
 ただ、物価上昇を加味した8月の実質賃金は前年同月比2.5%減と、17カ月連続で前年実績を下回っている。24年春闘では物価上昇分を上回る水準の賃上げを実現し、実質賃金の低下に歯止めをかけられるかが焦点になる。(畑間香織)

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