広がる新聞社系ポッドキャスト 音声でニュース身近に 新聞週間 15~21日 新聞と音声メディアの可能性を探る

2023年10月16日 06時36分

東京新聞のポッドキャスト「新聞記者ラジオ」の収録現場=千代田区で

 紙面、ウェブ、そして音声でも届ける-。スマートフォンやパソコンから聴ける音声番組「ポッドキャスト」で、取材の裏側や記者の思いを伝える新聞社・通信社が増えている。東京新聞も2020年7月に記者有志で「新聞記者ラジオ」をスタートし、配信タイトルは今月、100本になった。新聞週間(10月15~21日)に合わせ、新聞と音声メディアの可能性を探る。

新聞社とポッドキャストの相性について話すオトナルの八木太亮さん=中央区で

 朝日、毎日、読売などの全国紙に、本紙を発行する中日新聞などのブロック紙、長崎新聞、沖縄タイムスなどの地方紙、通信社の共同通信…。ポッドキャストに詳しい音声広告会社「オトナル」の八木太亮(たいすけ)代表(37)は「多く聴かれている『朝日新聞ポッドキャスト』が20年夏に本格始動し、ここ数年で20社ほどに増えた」と話す。
 ポッドキャストは、インターネット上で聴けるラジオのようなサービスで、米国など海外で人気となり、企業や個人が続々と配信を始めた。ネット広告業界団体IABの予測では、米国のポッドキャスト広告市場は25年には39億ドル(約5800億円)にもなるとされる。

◆国内リスナー1680万

 日本ではまだそこまで市場は大きくないものの、オトナルと朝日新聞社が昨年12月、15~69歳を対象に実施した調査で、ポッドキャスト利用率は15・7%、国内リスナーは推計1680万人に増加した。15~29歳の28・1%が利用しているという。
 新聞社・通信社では、こうした海外の動きや、若い世代に届けたいという狙いから、ポッドキャストを始める社が多いようだ。共同通信の担当者は「社内の若手から、今注目されている音声配信に通信社も関わりたいとの声が上がったのがきっかけ」と語る。
 八木さんによると、日本の新聞社系の番組は主に(1)記事紹介(2)記者が出演して深掘り(3)外部ゲストを呼び、話を聞くラジオ型-の3パターンに分かれ、最近は(2)が多い。「実際に現場を取材している記者の話は臨場感があり、価値が高い。リスナーもニュースを身近に感じられる」という。

◆収益化これから

 配信側も手応えを感じているようだ。朝日新聞ポッドキャストのメインMC神田大介さんは、本紙とのコラボ番組で「音声には情感がこもる。配信後に寄せられるリスナーからの反応がポジティブで前向きなのに驚いた」と語った。
 ただ、収益化はこれからだ。「ポッドキャストを含む音声広告費は前年比157%の22億円(22年)と拡大傾向だが、全体ではまだ小さい」と八木さん。ポッドキャストの人気ジャンルは「コメディー」と新聞社の十八番の「ニュース」という。「取材力は最大の武器。報道の力で日本でもポッドキャストのイノベーションを興して」と期待する。 (奥野斐)

◆「新聞記者ラジオ」 取材の裏側、こぼれ話も

新聞社のポッドキャストのアイコンが並んだスマホの画面

 東京新聞のポッドキャスト番組「新聞記者ラジオ」は幅広い分野の記者が登場し、取材の裏側やこぼれ話を語る。
 東京電力福島第1原発で働く作業員と向き合い続ける理由や、JR東日本の再開発で発掘された鉄道遺構「高輪築堤」を巡る報道の意外な端緒、南海トラフ地震の発生確率が「えこひいきされている」とスクープを放った記者の原動力など、ここでしか聴けない秘話を明かしている。
 会社の垣根を越えたコラボ回も。朝日新聞や共同通信の記者に出演してもらい、東京新聞側も相手の番組に出演した。メディア業界の課題や、保育士の職場環境をともに語った回は、再生回数が多く人気がある。
 9月下旬、節目の100回目を収録した。過去の配信分から、おすすめ回や印象に残る回を紹介した。番組に届いた意見や感想が励みになり、メンバーは「みなさんに聴いていただけたからこそ続けられた」と感謝する。これからも新聞を読むのが楽しくなるような配信を目指していく。 (三輪喜人)
 写真・平野皓士朗、稲岡悟、川上智世
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