藤井聡太四段が29連勝、最多連勝記録を更新、デビューから無敗で(2017年6月)

2023年10月11日 15時00分
【2017年6月27日朝刊より。年齢、肩書などは当時】
 将棋の最年少棋士で、プロデビューから無敗を続けている中学3年生の藤井聡太四段(14)=愛知県瀬戸市=が26日、東京都渋谷区の将棋会館で指された竜王戦決勝トーナメントで増田康宏四段(19)を破り、公式戦歴代最多の新記録となる29連勝を達成した。神谷広志八段(56)が1987年に樹立した大記録を、30年ぶりに塗り替えた。(岡村淳司、樋口薫)

◆10代同士の対決、押し切る

 対局はタイトル戦「竜王戦」の決勝トーナメント初戦で、持ち時間は各5時間。増田四段は2014年にプロ入りし、昨年の新人王戦で優勝したホープ。藤井四段に次いで2番目に若い棋士で、将棋界に2人しかいない10代同士の対決となった。

対局後の藤井聡太四段(手前右)と増田康宏四段(同左)。後方中央から藤井四段を見つめているのは、次戦で対局予定の佐々木勇気五段=2017年6月26日、東京都渋谷区の将棋会館で(河口貞史撮影)

 将棋会館は朝から藤井四段を一目見ようとするファンらで混み合い、対局場でも約100人の報道陣が対局者2人を取り囲んだ。
 将棋は、振り駒で先手となった藤井四段が序盤から積極的に攻めた。増田四段の対応が巧妙で、やや苦しいとみられる局面もあったが、最後は藤井四段が押し切った。
 藤井四段は昨年10月、史上最年少の14歳2カ月でプロ入り。
 先日引退した加藤一二三ひふみ・九段(77)の14歳7カ月の最年少記録を62年ぶりに更新した。12月にその加藤九段をデビュー戦で破ると、今年4月にはデビューからの公式戦最多記録となる11連勝を達成。その後も白星を積み重ね、今月21日には28連勝で歴代の最多記録に並んでいた。
 藤井四段の次戦は7月2日。同じ竜王戦トーナメントで、佐々木勇気五段(22)と対局する。

◆ニュータイプ 棋界席巻 先人の詰め学び ソフトで腕磨く

 この数年、将棋界ではソフトがトップ棋士を打ち負かすほど進歩し、棋界を土台から揺るがしている。棋士の考え方や修練方法が様変わりする激動期。その荒波の中で大記録を打ち立てた藤井四段の戦いぶりは、新時代を担う大棋士の片鱗を感じさせる。

竜王戦決勝トーナメントで勝利し29連勝を達成した藤井聡太四段=2017年6月26日午後9時30分、東京都渋谷区の将棋会館で(河口貞史撮影)

 藤井四段の指し手はオーソドックスといわれる。「大師匠(故・板谷進九段)は『将棋は体力だ』とおっしゃっています」「強くなれたのは詰め将棋をよく解いてきたから」。本人の言葉の端々に、先人への敬意がにじむ。幼い頃から“筋トレ”をするように詰め将棋の勉強に励んできた。そうして培われた基礎体力が、強さの源にはある。
 一方で、藤井四段は三段時代の約1年前から研究にソフトを導入し、特に序盤・中盤の棋力を伸ばしたといわれる。昨年末、本紙の対談でも「ソフトは人間の第1感以外の手も拾って読んでくるので勉強になる」と語っている。
 現在、若手を中心に、プロ棋士も研究にソフトを用いるのが主流となり、これまでの人間の感覚では指せなかった新戦法が次々と登場している。藤井四段はソフトの力をただ頼みにしているわけではなく、師匠の杉本昌隆七段(48)によると、「自分の武器にするというより、ソフトで研究してくる相手への対策という意味合いが強い」という。
 藤井四段は昔ながらの詰め将棋でつくり上げた強靱きょうじんな足腰と、新しい将棋ソフトを柔軟に生かすセンスを併せ持つ新星だ。時代の変わり目が生んだ“ハイブリッド棋士”といえる。

◆29連勝に「あきれる強さ」の声…怒濤の攻め、劣勢挽回

 天才少年が前人未到の領域に足を踏み入れた。将棋界で長らく、更新は難しいといわれてきた28連勝の大記録。わずか14歳の藤井聡太四段が、デビューから無敗のまま29連勝に塗り替える離れ業を成し遂げた。日本中に将棋ブームを巻き起こし、それでも冷静さを失わない姿に称賛の声が上がった。
 「自分でも信じられない。非常に幸運でした」──。激戦を制し、将棋史に残る大記録を達成した直後だというのに、いつも通りの落ち着いた口調だった。歴代最多の新記録となる29連勝を達成した藤井聡太四段は、時折ハンカチで口元を押さえながら「途中苦しくしてしまった」と、淡々と対局を振り返った。
 360度をカメラが取り囲んだ。18畳の特別対局室は約150人の報道陣で埋め尽くされ、目を開けていられないほどフラッシュの明滅が繰り返された。30連勝の懸かった次戦への意気込みを聞かれ、「次も強敵なので、教わる気持ちで全力でぶつかりたい」と謙虚に述べた。
 敗れた増田康宏四段(19)は、藤井四段のデビューまでは棋界最年少だった若手実力者。今年3月放送の非公式戦で藤井四段に敗れ、雪辱を期したが果たせなかった。「序盤はうまくいったかと思ったが…。中終盤がかなり強かった」と、悔しそうな表情を浮かべた。
 この日は対局開始からわずか1時間で、藤井四段が3筋の歩を突き、戦端を開いた。対する増田四段は角を交換して先手陣に打ち込み、藤井四段の飛車を捕獲。一時は増田四段が優勢との声も上がったが、藤井四段が反撃に出る。桂馬と角を用いた怒濤どとうの攻めで一気に後手玉を追い詰めた。別室で観戦していた勝又清和六段(48)は「強すぎる。すごいのが出てきた。ほとんどの棋士はこの寄せを見てあきれ返っているのでは」と絶句した。
 対局後には記者会見も設定され、藤井四段はおびただしいカメラにもひるむことなく、「もっと実力を高め、タイトルを狙える位置に立ちたい」と前を見据えた。歴史的な会見の場は昨秋、史上最年少でのプロ入りを決めた日と同じ将棋会館の一室。当時うつむきがちだった少年は、わずか10カ月で別人のようにたくましくなっていた。
 いつも通り謙虚な言葉を繰り返しつつも、21日の28連勝時との違いを問われ、「単独1位になれたのは自分でも特別で、今までと違った喜びがある」と素直に語った。喜びを伝えたい相手は「師匠と家族」と答え、中学生らしい笑顔も浮かべた。

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