米軍「外来機」の騒音被害が深刻化 普天間飛行場の周辺で聞いた沖縄の怒り

2023年9月27日 12時00分
 沖縄県の米軍基地で、他の基地に所属する「外来機」の被害が深刻化している。ジェット戦闘機のすさまじいごう音や、通常と異なる運用に苦情が相次ぎ、抗議する自治体や議会も。住民に犠牲を強いつつ、外来機を飛ばし続ける理由は何なのか。辺野古へのこ新基地建設で揺れる普天間ふてんま飛行場(宜野湾ぎのわん市)周辺を訪ねた。(宮畑譲、安藤恭子)

◆保育園では園児が昼寝もできない

 「恐ろしい音ですよ。昼寝ができず泣き出してしまう子もいる」
 普天間飛行場東側の目と鼻の先にあり、滑走路から約1キロの緑ケ丘保育園。25日に訪れた「こちら特報部」に、神谷武宏園長は憤りを隠さなかった。子どもたちは園内で寝そべるなどしていたが、外来機が飛ぶ日は様相が一変するという。
 「特に(離着陸を繰り返す)タッチ・アンド・ゴーはひどい。何十分と続くこともある。子どもたちが園庭で遊んでいても、室内に入れるようにしている」
 同保育園では2017年12月、ヘリの計器カバーとみられる部品(約200グラム)が屋根に落ちた。ヘリや航空機が真上を飛び、パイロットの顔が見えることもある。普天間飛行場所属の垂直離着陸輸送機オスプレイやヘリによる落下物や事故も心配だが、外来機の騒音が日常になりつつある現状が恨めしそうだ。

緑ケ丘保育園の園庭で、外来機の騒音に憤る神谷武宏園長。ヘリの部品は木の後ろの建物の屋根に落ちた=沖縄県宜野湾市で

 「落下物があったころから急に外来機が増えた。それでも慣れるというか、無視せざるを得ない。いちいち向き合っていたら耐えられない」
 普天間飛行場がある宜野湾市が統計を取り始めた2017年度以降、着陸する外来機は増加。同年度は415回だったが、18年度は1756回に急増。21年度は3446回に達した。本年度は7月までで885回に減ったが、ステルス戦闘機F22、ステルス戦闘機F35、F15戦闘機など、騒音が大きいジェット戦闘機が飛来。いずれも普天間飛行場を基地とする海兵隊の所属ではない。

◆市議会が抗議しても「やりたい放題」

 8月に入っても、22日午後7時半すぎに、宜野湾市内で111.7デシベルの騒音を記録。夜間の飛来やエンジン調整の音もある。8月11〜22日にかけては、FA18戦闘攻撃機など50回もの飛来が確認されたため、宜野湾市議会は9月8日、普天間飛行場への外来機の飛来禁止などを求める抗議の決議をした。
 「今日は飛ばないな、と思っていたら、夕方から急に次々と飛ぶ時もある。軍事訓練ということで、いつどのルートを飛ぶのかは明らかにされない。日本政府が何も言わないから、米軍はやりたい放題だ」

普天間飛行場が見える高台で、騒音について話す新垣清涼さん=沖縄県宜野湾市で

 うんざりした様子で基地の実態を語るのは、周辺住民約5800人が飛行差し止めなどを求めている普天間基地爆音訴訟団の新垣清涼団長だ。基地内が一望できる嘉数高台公園などから基地内を指さし、何度も訴える。「普天間に基地がある限り、騒音はなくならないですよ」
 地元の不満は高まるが、顧みられる様子はない。普天間飛行場は1996年のSACO合意によって移転・返還が決まっているが、全く進まない。前提条件となる代替施設の名護市辺野古の新基地建設が難航しているからだ。
 神谷園長は、怒りを押し殺すように言う。
 「名護の人に『基地をどうぞ』って宜野湾の人が言えますか。それで喜べますか。悲しいですよ。不条理です。本当は一刻も早く普天間基地は閉鎖してほしい。それが願いです」

◆部隊が辺野古に移っても返還されない?

 そもそも部隊が辺野古に移転しても、普天間飛行場は返還されずに米軍が使い続ける可能性も残る。
 返還条件には「長い滑走路のある民間施設の使用改善」があるが、沖縄県内で、大型機が発着できる3000メートル級の滑走路がある民間施設は限られる。2017年、当時の稲田朋美防衛相が国会で、条件が整わなければ「返還がなされない」と答弁している。

8月、沖縄県宜野湾市の市街地上空を飛行するFA18戦闘攻撃機。普天間飛行場に着陸した=同市提供

 新垣さんは「合意から何年も過ぎているのに、基地施設の増設や修理をしている。ポーズだけで、本当に移転・返還する気があるとは思えない」と話す。
 外来機の飛来は、米軍嘉手納かでな基地(嘉手納町など)でも問題となっている。同町議会は7月、外来機の巡回配備で騒音が激化し「米軍の傍若無人な基地運用は受忍限度をはるかに超えている」などとして、外来機の飛来禁止などを求める抗議決議案を可決した。
 同基地では常駐するF15戦闘機が老朽化し、昨年11月から約2年かけて退役している途中。代替としてF35を一時的に配備しているほか、これまでF16戦闘機やF22が暫定配備された。

◆「ガード下」並みの騒音、増える苦情

 それに伴い周辺住民からの騒音苦情も増えている。沖縄市と嘉手納、北谷ちゃたん両町でつくる「嘉手納飛行場に関する三市町連絡協議会」(三連協)によると、外来機を含む騒音などに関する苦情件数は4〜7月、3市町で計816件と前年同期と比べて33件増え、沖縄市だけでみると227件と前年同期の3倍超となった。
 外来機の騒音被害に、戦闘機の種類が関係しているとみる研究者もいる。同基地周辺の2カ所に設けた騒音計を用いて分析している渡嘉敷健・琉球大准教授(環境工学・騒音)によると、従来のF15が最大94デシベルだったのに対し、新たに配備されたF22は101デシベル、F35は106デシベルと騒音が大きかった。

米軍普天間飛行場に駐機する大型輸送機C5ギャラクシー(宜野湾市提供)

 90デシベルは人の怒鳴り声、100デシベルは電車が通る時のガード下に例えられる。「新たに配備されたF35は排気ノズルの口径も出力も大きく、F22はスピードの速さが特徴。そうした構造から大きな音が出やすいのでは」
 渡嘉敷さんは、離着陸のたびに何度も旋回する様子を挙げて「住宅地にある基地で、そんな訓練をする必要があるのか」と疑問視する。「会話できないほどの騒音にさらされ、住民は逃げ場がない。米軍は騒音を低減する飛行をするべきだし、日本政府にも安全な飛行を促してもらいたい」
 「こちら特報部」は、米軍基地で外来機が相次ぐ理由や抗議への対応について米軍と沖縄防衛局に尋ねたが、期限までに回答はなかった。
 佐藤学・沖縄国際大教授(政治学)は「外来機の巡回配備は、騒音悪化にとどまらない問題をはらんでいる」と警告する。背景に、中国のミサイル攻撃を念頭に、他の場所に部隊を分散させることで残存性を高める米空軍の構想「機敏な戦闘展開(ACE)」があるためだ。

◆「危機感を本土と共有したい」

 「嘉手納が攻撃対象に想定されているというのは、基地のある沖縄が、戦争の最前線となる可能性を表す」と佐藤さん。ただ、中国への脅威から米軍が守ってくれるという見方や、コロナ禍を経た観光客の増加、地価上昇といった明るい話題もあって、「戦争に続く暗い話を、県民もなかなか直視できていない」と受け止める。
 そうした中で、今月立ち上がった全県的な反戦組織「沖縄を再び戦場にさせない県民の会」の呼びかけに着目する。「日本の他の基地や上空を飛ぶ民間機にも関わる問題だ。沖縄から発信し、この危機感を本土と共有したい」

◆デスクメモ

 普天間飛行場に配備されているオスプレイは、低周波音が問題になっている。そこへ外来機のジェット戦闘機の金属的なごう音が加わるのはあまりに酷だ。石垣島などの自衛隊基地を訪問した防衛相は県知事に会わなかったが、国を代表して米軍に負担軽減を求める立場ではないのか。(本)

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