「職場にいられなくなるぞ」口止め、もみ消し…防衛省ハラスメントの実態は 「旧軍隊のあしき体質」変われるか

2023年8月19日 06時00分

防衛省の三貝哲・人事教育局長(中央左)に、ハラスメント防止に向けた提言を手渡す有識者会議の只木誠座長=防衛省で

 「防衛省・自衛隊においてハラスメント事案の発生を防ぐことができずに現在に至っているのは内外周知の事実」。有識者会議は18日に防衛省に出した提言で、こう断じた。実際、隊内での性暴力などを認め、国に賠償を命じた確定判決も複数ある。ハラスメントや暴力を受けた自衛官の救済に取り組む弁護団からは「旧軍隊のあしき男社会、家父長制の体質が根強く残る組織風土が問題の一つ」との声も上がる。(太田理英子、奥野斐)

◆集団行動と上命下服の徹底 → 隠蔽体質

 「ハラスメントを一切許容しない組織環境の構築は自らに課せられた責務」。浜田靖一防衛相は同日、隊員らに向けたメッセージを出した。提言にある「トップメッセージの発信」をさっそく実行した形だ。

佐藤博文弁護士

 昨年9月以降、1325件の申告があったという防衛省・自衛隊のハラスメント。件数もさることながら「自衛官の人権弁護団」代表の佐藤博文弁護士は「刑事事件になり得る暴力性に加え、集団性と組織的隠蔽いんぺいがみられる。他の官庁や一般企業での場合と絶対的な違いがある」という。
 自衛隊では集団行動と上命下服が徹底される。「その中で上司や先輩隊員によるこらしめや悪ふざけがエスカレートし、周囲も見て見ぬふりをする例が多い。集団責任が生じるため、隠蔽に走りやすい」と佐藤氏は見る。
 防衛省が18日に公表した特別防衛監察の結果でも「指揮官が内部告発を、担当者と結託してもみ消した」「事を大きくするとお前も職場にいられなくなるぞと言われた」などの事例を記載。相談員に申し立てをやめるよう誘導された、訴えを加害者に伝えられ状況が悪化したなど、不適切な対応も列挙されていた。

◆「国民意識は変わったのに自衛隊は今も」

 こうした対応のまずさから、被害申告した人が職場で冷遇されるなど、二次被害も後を絶たない。
 航空自衛隊で先輩隊員に性暴力を受け、被害申告後に上司から退職を強要された女性が国に賠償を求めた訴訟で、2010年の札幌地裁判決は二次被害の深刻さを重視。組織には▽被害回復に努める配慮▽加害者の隔離などの環境調整▽被害者の不利益防止―の義務があるとし、空自はいずれも違反したと結論づけた。
 だがその後もハラスメント対策に大きな変化はなかった。弁護団への相談は以前は年に40~50件だったが、近年は急増。21年は93件、22年は101件、今年は8月上旬までに既に100件近くに上る。
 佐藤氏は「ハラスメントへの国民の意識は変わったのに、自衛隊は今も空洞状態。自衛隊での人権問題の解決のポイントは、透明性や可視化。国会や第三者機関が働きかけて改善させる必要がある」と話す。
 ハラスメント対策に詳しい神奈川県立保健福祉大大学院の津野香奈美准教授は「失敗が許されず、多くの規則への高い順守意識が求められる環境では、ハラスメントが起きやすい」と説明。失敗を口実とした攻撃が正当化される傾向があり「ハラスメントが起きる前提での対処が重要。業務の指揮系統と、ハラスメントの相談・対応部門を切り離すことがまず必要だ」とした。

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