新型コロナ対策の「ゼロゼロ融資」の返済本格化で業績戻らない中小企業が「ピンチ」 倒産件数既に急増 

2023年7月20日 06時00分
 新型コロナウイルス対策で中小企業向けに実施された実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」が返済期限を迎え、融資を受けた企業の倒産が増えている。民間の調査によると、利用した企業の倒産が6月は61件で前年同月比の2.3倍に増加。日本経済はコロナ前の水準に戻りつつあるが、中小では業績の回復が遅れ、返済がままならない事業者も少なくない。返済が本格化する今夏以降は倒産がさらに増える懸念が強まっている。(寺本康弘)

 ゼロゼロ融資 コロナ禍で売り上げが減少した中小企業の資金繰り支援のため、担保を取らず、無利子(3年間)で最大3億円の資金を貸し出す制度。中小企業庁によると、昨年末時点で約249万件、約43兆円の融資が行われた。政府は、引き続き事業環境の厳しい企業に対し、借り換えに伴う保証料を補助する支援制度も設けている。返済が滞り信用保証協会による肩代わりが発生した場合、回収できなければ損失の一部は国民の税金で負担する。

◆耐える経営者 返済は「長い道のりになる」

 「中小零細企業は取り残されている」。東京都豊島区で印刷会社を経営する長谷川清さん(78)はそう実感する。日経平均株価は高値で推移。円安を追い風に業績が好調な大企業も目立つ。しかし、長谷川さんの会社ではコロナ禍で激減した売り上げが、現在も戻らない。
 コロナが流行し始めた3年前、チラシやポスターの注文を受けていたイベントがゼロになり、急場をしのぐために金融機関からゼロゼロ融資などで約5000万円を借りた。当初は2年後から返済を始める計画だったが売り上げの戻りは鈍く、昨年、返済開始時期を1年先延ばししてもらうことを金融機関に依頼した。
 今年3月には印刷工場の閉鎖を決断。50年以上自前で印刷をしてきたが、すべて外注し、デザインなどデータ作りに集中する業態に切り替えた。長谷川さんは「悩んだけれど、家賃や機械の維持費を気にしなくてよくなり肩の荷が下りた」と前を向く。利子の支払いは今夏から始まるが、元金の返済開始をさらに1年待ってもらうことを金融機関に要請。進まない返済に長谷川さんは「長い道のりになる」とつぶやいた。

◆人手不足、物価高に加えて「返済」

 コロナ禍の2020年3月に始まったゼロゼロ融資は、国が都道府県を通じて3年間利子を負担。返済開始を3年後に設定した企業が多いとみられ、この夏に返済が本格化している。
 倒産に追い込まれる企業も増えている。有力信金の幹部は「飲食、建設、小売りの一部でじわじわと倒産件数が増えている」と明かし、「返済できるよう資金繰りだけでなく本業支援に力を入れている」と話す。
 東京商工リサーチによると、今年上半期の倒産は322件で、前年同期比1.9倍と急増。売り上げが戻らずに過剰債務に陥った企業が多く、返済開始とともに倒産に追い込まれる企業が増えた。人手不足や物価高も経営の足を引っ張る。同社情報部の谷沢暁氏は「返済が本格化し、行き詰まる企業の数がさらに増加する可能性がある」と指摘した。

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