<この声を 統一地方選>(下)限界集落 過疎高齢化に展望を

2023年4月6日 07時27分

植樹の仕方について住民と意見を交わす浅香さん(左端)=小鹿野町で

 埼玉県小鹿野町の中心部から十キロほど離れた中山間地に位置する上郷(かみごう)地区に、住民の健康増進と交流を目的とした「上郷健交(けんこう)サロン」が発足したのは二〇一六年六月。体操やペタンク大会などの行事を定期的に続けている。三月下旬に地区のグラウンドで開かれたぺタンク大会でも、平均年齢が八十歳を超える住民たちの歓声と拍手が響いた。
 地区は年々、高齢化と過疎化が進み、住民の50%以上を六十五歳以上が占める「限界集落」に相当する。サロンの活動が軌道に乗るまでには「試行錯誤の連続だった」と事務局長の浅香繁さん(72)は話す。
 秩父市内の郵便局を定年退職後、一四年から地区の民生委員を務めることになった浅香さんは手始めに、当時の四十六世帯、七十四人の住民すべてを訪問。そこで思いがけない現実に直面する。「高齢化に伴う、いわゆる地域の崩壊ですよね。孤立しちゃってる人もいて、人間関係も意外と希薄だった」
 このまま、なりゆきに任せていたら、人も地域も確実に衰弱していくのは目に見えている−。そう悟った浅香さんが着目したのが、介護予防の一環として当時町が導入した「こじか筋力体操」だった。保健師らの協力も得て住民に体操の参加を呼びかけ、併せてペタンクも取り入れた。
 回数を重ねるにつれ、健康寿命への知識や関心は確実に高まった。続いて浅香さんは「話し合いによる地域づくり」を始動する。
 サロンに集まった住民間で何度も意見交換の場を持ち、急病や災害発生時の際の円滑な連絡態勢を構築。一一〇番、一一九番した際に伝える内容のポイント、いざというときの連絡先などを住民間で共有できる仕組みを整えたことで、一九年の台風19号の避難の際にも大きな効果を発揮したという。さらに、環境崩壊を食い止め、地区を美しい花の里として後世に残そうと、二一年五月には「上郷花の会」が発足。昨年十月にはイロハモミジの苗木五百本を、今年四月二日にはサクラやモミジの苗木約四百本を植えた。
 全国的に見ても限界集落の先進的な取り組みを実践するまでになった上郷健交サロンだが、浅香さんが地区を回り始めた時点では、他の具体的な先行例がなかなか見つからず、苦労の種だったという。「町や町内各地の住民の温かな支援もあってここまできた。まずは住民が集まって課題について話し合ってみることがすごく大切。なぜ国なり行政なりがこうしたことをもっと主導しないのか」
 一口に「限界集落」といっても、地域によって現状は大きく異なる。だからこそ、国や行政は過疎化と高齢化への取り組みに関して具体的な道筋を示してほしいと浅香さんは切望する。先月に告示された県議選で小鹿野町を含む北1区は無投票だったが、県議会にはこう注文を付ける。「大きな旗印と道筋があれば、地域の理解のもとで住民同士をつなぐような人材も増えていくかもしれない。国や行政に旗印の必要性を訴えることが、政治の仕事ではないでしょうか」(久間木聡)

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