山田家【墨田区・錦糸町】元・鶏卵問屋だからリーズナブル! 70余年焼き続ける「本所七不思議」ゆかりの人形焼 〜ぐるり東京 名品さんぽ〜

2023年4月11日 10時00分

ぐるり東京 名品さんぽ


名の知れた定番商品から隠れた名品まで。東京のイチオシ商品をご紹介します。

「人形焼」は1個から購入可で箱詰め、袋詰めもある。包装紙には本所七不思議の逸話が描かれている。

 新店舗が次々と誕生しては消えていく、オールジャンルのグルメ激戦区、東京。そのなかで何世代にも渡ってお店を守り続け、客を魅了し続ける名品、名店がある。なぜ、それほどまでに人を惹きつけてやまないのか。その魅力を探る「名品さんぽ」の第13回は、錦糸町にある老舗の人形焼専門店「山田家」を訪ねた。

数多ある人形焼とは一線を画す逸品を追求

 JR線 錦糸町駅南口から徒歩3分の好立地にある「山田家」は親子3代続く、人形焼一筋の専門店だ。昭和26年(1951年)の創業から、錦糸町のまちとともに70年余りの歴史を刻む。

本店は錦糸町駅南口より徒歩3分。11年前にリニューアルした和モダンな店構え。

 そもそも錦糸町は、江戸時代の明暦3年(1657年)の「明歴の大火」を機に開発が進み、明治に入って、総武鉄道の本所停車場(現、錦糸町駅)が開設されると一気に発展していった街だ。時代が進み、昭和9年(1934年)に駅南側の工場跡地を東宝が買い取り、劇場や映画館を中心とした“江東楽天地”が開業すると、墨田区屈指の繁華街として賑わった。
「江東楽天地は今でいうところのシネコンです。終戦後は『西の有楽町、東の錦糸町』といわれるほど活気がありました。うちは元々、鶏卵卸問屋を営んでいたのですが、戦後すぐには事業を再開できず、電気屋を営んでいたそうです。本業への再起を図って拠点を構えたのが、江東楽天地のある錦糸町でした」

「背伸びをせずに、いい材料で美味しいものを作る。それだけです」と語る会長の山田昇さん

 そう語るのは山田家の2代目の山田昇さんだ。10年前に息子の弥実ひろみつさんが3代目を継ぎ、現在は会長を務めている。創業者である父の実さんは、高価な砂糖を使う甘いものが贅沢品だったこと、卵を卸していた浅草界隈の人形焼店が人気だったことから、自らも人形焼の製造・販売に乗り出したという。
「当初は職人を雇ったと思います。しかし、父自らが率先して人形焼づくりを始めます。人形焼は、焼き立ては美味しいものの、冷めると固くぼそぼそしてしまう。それを業界の型にはまらず、改良に改良を重ねて山田家独自の人形焼にしていきました」と山田さん。

「こし餡こそが最上」の信念を貫き続ける

 他の人形焼と大きく違うのが卵の量だ。鶏卵卸問屋であることから卸値で良質の卵を仕入れられる。その強みを活かして作られる生地は、しっとりとした食感が口の中にふわりと広がる。「翌日も固くならない」の評判通りで、むしろ翌日は餡が生地に馴染んで、さらにしっとりとする印象だ。
「卵はこれまで茨城県の奥久慈卵を使っていましたが、2年前から千葉県の鵜之澤養鶏の紅たまごに切り替えました。より黄身が濃い卵になり、産地に近くなった分、鮮度も上がっています」(山田さん)
さらに和菓子の肝である餡にも妥協がない。北海道産の小豆(餡製造業者が晒した半製品)を仕入れ、自社でアルカリイオン水と極上ザラメで炊きあげる。これにハチミツを加えた生地が相まって、甘味と風味を香り立たせている。
「ハチミツは隠し味程度ではなく、保存効果、焼き色の美しさを狙って結構加えています。餡は水もアルカリイオン水を使ったほうが小豆の香りが残り、ザラメを使うのも白砂糖よりもアクがなく、後味が残らない上品な甘さになるからです。うちの餡をよく見てください。真っ黒じゃなく白味がかっているでしょ。これが極上の餡である証拠です。うちはこし餡のみ。先代の『こし餡こそが最上』の言葉を今も守り続けています。時代とともに甘さは控えめになりましたけどね。1日平均3000〜4000個、週末やお彼岸シーズンはそれ以上製造しています」

「本所七不思議」になぞらえた型4種を厳選

(右上から時計回りに)狸、三笠山、紅葉、太鼓の4種類。

 味もさることながら、山田家の人形焼の愛らしい型も人気の理由だ。一番人気はキョトンとした顔つきが微笑ましい「狸」(150円)。他に「太鼓」(130円)、「三笠山」(110円)があり、餡なしの「紅葉」はカステラ感覚で味わえて1個50円と破格値だ。
「店のある場所が、江戸の奇談『本所七不思議』の一つ『おいてけ堀』があったとされる候補地の一つで、錦糸町土産を意識して開発した経緯があります。この七不思議にちなんだ型は、昔は7種類あったのですが、フードロスの観点で人気の4種類に絞っていきました」
 包装紙を漫画家兼江戸文化研究家の宮尾しげをさんが手がけており、その包装紙をヒントに作家の宮部みゆきさんが『本所深川ふしぎ草紙』を書き上げ、吉川英治文学新人賞を受賞したことでも話題となった。

自慢のこし餡は淡い紫色。惜しみなく餡が詰まった生地もしっとりと甘い。

 山田家の人形焼人気は料理界の重鎮、服部幸應さんの耳にも届く。服部さんが厳選した商品を揃えたお取り寄せ公式サイトでも取り扱われるようになる。その中でも人気ランキング2位(2023年4月現在)に位置する。こうした山田家の評判を聞きつけ、他の地域への出店話も多くあったそうだが、山田さんは言う。
「店舗拡大や多店舗展開は考えていません。錦糸町で生まれた人形焼を、錦糸町で売るのが基本。今もこれからも身の丈にあった商売をしていくまでです」
 地域密着型の店でありたいと考える山田さんが、立ち寄りスポットとして紹介してくれたのが店から100mほどの距離にある錦糸堀公園だ。この公園もまた「おいてけ堀」のあった候補地の一つ。作中に出てくる、釣った魚を「オイテケ〜」と呼び止めるおぞましい声の主は狸、カッパなど諸説あるが、この公園にはカッパの像が立っている。像の前で山田家の人形焼を撮ったり、食べたりするのも乙だ。
「店から3分ほど南に行った所には知る人ぞ知るスポットとして、田螺たにし稲荷神社があります。ここは、周囲が火事に見舞われた際に、社殿にタニシがびっしり張り付いて大火から社殿を守ったという逸話がある小さな神社なんです。こうした摩訶不思議な話をはじめ、歴史も文化も高尚なものから俗っぽいものまでいろいろある。多様性も満ちているのが錦糸町の魅力。これからも地域のお客様との交流を大切にしながら暖簾を守っていきたいですね」

<今回の取材先>

山田家

昭和26年(1951年)創業。JR線、東京メトロ半蔵門線 錦糸町駅南口より徒歩2分。四ツ目通り沿いに位置し、平成24年(2012年)にリニューアルオープン。和モダンな店構えで、店内はアットホームな雰囲気。本店の他にJR錦糸町駅直結の「テルミナ」地下1階に支店がある。毎週土曜は日本橋の三越伊勢丹で、日曜は二子玉川の玉川高島屋S・Cで販売あり。創業家を中心にパートを含む20人体制で製造・販売中。

<データ>
住所 東京都墨田区江東橋3-8-11
電話 03-3634-5599
営業時間  10:00〜18:00
定休日 定休日 水曜、1月1日
HP https://www.yamada8.com

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※2023年4月10日時点での情報です。
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