チンアナゴ、引っ越しは珍道中!? すみだ水族館調査 最短1日で転居、距離もバラバラ

2023年1月18日 07時11分

「すみだ水族館」のチンアナゴ。巣穴を頻繁に変えることが知られている=いずれも墨田区で

 水底の巣穴から細長い体を伸ばす姿が愛らしい「チンアナゴ」。彼らには不思議な行動がある。たびたび巣穴の場所を変えるのだ。すみだ水族館(墨田区)で飼育を担当する松田健治さん(28)は、一年以上かけて「引っ越し」の実態を調べてみたが、これといった法則性は見えず…。謎は深まるばかりだ。
 チンアナゴは外敵から身を守るため、砂地に掘った穴に、三十〜四十センチほどの体の下部を潜り込ませている。巣穴から完全に出ることは少ないが、たまに泳ぎ出て移動し、尾を使って別の場所に巣穴を掘る「引っ越し」をするという。
 研究者や飼育員の間ではよく知られており、松田さんも来場者にその話をすることがあった。調査のきっかけになったのは、来場者が口にした素朴な疑問。「『なぜ引っ越すの? どれくらいの頻度で引っ越すの?』と聞かれて答えられなかったんです」

飼育員の松田健治さん

 食用ではないチンアナゴは研究が少なく、生態に不明な点が多い。引っ越しに関する論文もほとんど見つからず、自ら調べてみることにした。
 まずは調査対象の選抜。一般的なチンアナゴは体の側面に二つずつ、おなかに一つの模様がある。それらに特徴がある六匹を選んだ。体が黒い「クロちゃん」、顔の模様が歌舞伎の隈(くま)取りのように見える「かぶきち」、模様が薄い「うすいさん」などと名前を付け、一昨年六月から昨年九月まで(一部期間除く)引っ越しを観察した。
 長さ五・五メートル、幅八十センチの水槽を約百区画に分け、六匹がどこにいるかを継続的に記録。普段は巣穴に引っ込んで観察しにくいため、巣穴から体を伸ばす餌やり後などを狙った。
 水槽には、チンアナゴの仲間のホワイトスポッテッドガーデンイール、ニシキアナゴも含めて計二百匹もひしめき合っている。目印の模様が砂に潜ってしまえば、目当てのチンアナゴを見つけるのはほぼ不可能。実際に調査の期間中、体に迷路のような模様がある「めいろ」は十八回、「かぶきち」は十六回も行方不明になった。
 餌をやりながら、水槽の中の一匹一匹に目を凝らす悪戦苦闘の日々。それでも四百三十一日間にわたって継続的に執念深く観察した結果、最も多い「なっしん」で六十六回、最も少ない「ひょうたん」でも三十三回の引っ越しを確認することができた。
 ただ、個体によって頻度にばらつきがある理由はわからない。同じ個体でも次の引っ越しまでの期間は、最短一日から最長二カ月と一貫性はなかった。中には五メートル近い長距離を引っ越したケースもあったが、移動の距離もその時々でまちまち。体が太い、細いなどの体格と移動頻度にも、関連を見いだすことはできなかった。
 チンアナゴ同士のケンカが強い個体は、ひょっとして同じ巣穴にいる期間も長いのではないか。そんな仮説も立ててみたが、なかなかケンカの現場を押さえられない。外見で雌雄を判別できないため、生殖行動と引っ越しを関連づける手掛かりもない。「名前はよく知られているのに、謎に包まれているのがチンアナゴの魅力。さらに綿密な観察が必要になる」と松田さん。さらなる調査に意欲を燃やしている。
 文と写真・佐藤航
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【かぶきち】顔の模様が歌舞伎の隈取り

【ひょうたん】下の模様が「ひょうたん島」

【クロちゃん】体が最も黒い

【なっしん】右側の2番目の模様なし

【うすいさん】2番目の模様が薄い

【めいろ】模様が迷路のよう

調査した6匹=すみだ水族館提供

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