水道橋博士さんは議員辞職…でも「在職」療養の道はなかったの? 病気なのに「給料泥棒」と批判まで

2023年1月18日 06時00分
 れいわ新選組の水道橋博士さん(60)が参院議員を辞職した。うつ病を公表していた。公職者は職を全うできない時に批判されがちだが、精神疾患は誰にでも起こり得る。こうした病に見舞われた議員にとって、職にとどまりながら療養する選択肢はあり得ないのか。休職療養の可能性について考えた。(木原育子)

◆うつ病 「責任感が強い頑張り屋さんにも限界はある」

参院選で当選を決め、開票センターであいさつした水道橋博士さん=東京都新宿区で

 長く芸能界で活躍してきた水道橋さんは、れいわの山本太郎代表に誘われ、昨夏の参院選では比例代表で初当選した。だが、昨年10月下旬から休んでいた。
 精神科医の香山リカさんは「選挙で莫大ばくだいなエネルギーを注ぎ込んだことも影響したのかも」と思いやる。
 「日本人に多い『荷おろしうつ病』だったのでは。負荷がかかっている時はわれを忘れて頑張るが、負荷が外れた時、一気に燃え尽きていることに気付く」。その上で「責任感が強い頑張り屋さんにも限界はある。無理しない生き方を大事にできる社会に」と話す。
 厚生労働省によると、うつ病は気分障害の一つ。100人のうち6人がかかる。水道橋さんは芸能人時代から苦しんだという。誰にでも降りかかる病だが、職にとどまる間はSNSで「給料泥棒」「辞めるべきだ」との声が絶えなかった。

◆欠席できるが休職の制度はなく 休んでも議員歳費減らず

 かたや議員の病気療養に関する制度は、立ち遅れてきた感が否めない。
 国会議員は国会開会中、欠席届を提出すれば欠席ができるが、長欠時にも認められたのは2000年になってから。橋本聖子参院議員が出産した頃だ。
 元参院事務局職員で、同志社大の武蔵勝宏教授(議会制度論)は「女性議員が少なく、議論が起きなかった」と解説する。今では病気療養でも使えるという。

国会議事堂

 参院議事課によると、民間企業の休職のように長期的な休みを認める制度がない。その一方、議員歳費は支払われ続ける。「国会議員は国家公務員の特別職で、労働基準法の適応がないから」(武蔵さん)だが、通常と変わらない扱いは、批判の一因にもなる。辞職を求める声も湧き上がる。
 「日本の議員は、野球のように一度退場したら二度と試合に戻れない。水道橋さんは重く苦しい決断に迫られたのだろう」。武蔵さんはそうおもんぱかる。

◆カナダで議会欠席の閣僚「非難全くなし」

 海外では、議員の休みを念頭に置いた制度が設けられてきた。他の議員が代わりに投票する「代理投票」制度があるほか、2大政党制の米国や英国では、出席できない議員がいる場合、反対の立場の政党の議員も投票しない「ペアリング」制度が導入されている。
 精神疾患がある議員へのまなざしも特筆すべきだ。カナダでは16年、国際開発大臣政務官だったセリーナ・セザル・シャバーン議員がうつ病を公表。「私は国会議員であり、うつ病と闘っている人々の一人」とブログでつづり、反響を呼んだ。精神疾患がある人も社会で役割を持ち、誰も排除しない社会づくりが必要という認識が広まった。

◆精神疾患での辞職は差別を助長する懸念

 愛知大の岡田健太郎准教授(カナダ政治)は「現在閣僚の労働大臣は同じ16年、アルコール依存症を公表して議会も欠席したが、非難する論調は全くなかった」と振り返る。日本でも病気を理由に長期療養する議員がいるが「精神疾患が理由で辞職を余儀なくされたら、その病に対する差別を助長する」と訴える。
 れいわには、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など身体介護が必要な議員がおり、さまざまな支援を探って先例をつくってきた。
 一般社団法人「精神障害当事者会ポルケ」代表理事の山田悠平さん(38)は「精神分野だけ議員を続ける難しさが残っているとしたら、ゆゆしき問題。精神疾患があっても議員を続ける道は本当にないのか、模索を続けてほしい」と願う。

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