連勝街道の朝乃山、今思えば1年出場停止は妥当だった⁈ コロナ禍で外出禁止破り ファンの間で分かれる賛否

2023年1月15日 12時00分

取り組みを前にする朝乃山=14日、両国国技館で

 大相撲初場所で十両の朝乃山(28)が連勝街道をひた走っている。新型コロナウイルス対策のガイドライン違反で、6場所の出場停止になり、大関から三段目まで番付を下げたが、関取復帰後、地力の違いを見せ付けた格好だ。そもそも、コロナ禍という特殊な状況ではあるものの、1年間もの謹慎はスポーツ界でも珍しい。ファンの間でも、いまだ賛否が分かれる。納得のいく処分のあり方は、ないものか。 (西田直晃)

◆「かえって良かった」「飲みに行っただけなのに」

 復帰して3場所で関取に返り咲き、西十両12枚目で迎えた、今場所。朝乃山は14日まで負けなしの7連勝中だ。両国国技館で観戦する好角家は、快進撃を続ける朝乃山をどう見ているのか。
 「横綱候補だったけど、気構えが足りなかった。処分は妥当。相撲が取れるありがたみを感じられて、かえって良かったんじゃないかな」一。千葉市から訪れた松田芳男さん(64)は、処分に賛同する。一方、朝乃山ファンという男子大学生(21)は「飲みに行っただけなのに、1年間は長いと思う。大関に戻ってくれるのが待ち遠しい」と期待する。ファンの中でも意見はさまざまだ。

◆同じ「キャバクラ通い」でも阿炎は3場所出場停止

 朝乃山はコロナ感染対策で、外出が禁じられていた2021年5月場所中、スポーツ紙記者と、都内のキャバクラに通っていたと週刊誌に報じられた。同年の初場所以降、たびたびキャバクラ通いをしていたという。しかし、朝乃山は協会側の聴取に、当初は「事実無根」と否定。後になって認めた。ちなみに、同行した記者は事実隠蔽いんぺいのために、朝乃山に口裏合わせを提案したとして、諭旨解雇処分になった。
 相撲界では20年7月場所中にも、幕内の阿炎(28)のキャバクラ通いが発覚した。ただ、処分は3場所の出場停止。阿炎は幕下下位まで番付を下げたものの、2人の処分の重さには差がある。日本相撲協会はこの違いについて、朝乃山が模範を示すべき立場の大関だったことや、調査にうそをついたことを理由に挙げた。

◆「下の番付で当たった力士が迷惑被ったこと忘れるな」

 大相撲に詳しい漫画家やくみつる氏は「まげを切らされなかっただけでもよかった」と語る。相撲界はこれまでも、暴行や野球賭博、薬物などの不祥事で関係者を処分し、横綱や大関クラスが引退する事態もあった。「大関陥落は痛かったとしても、破門されなければ再起はできる」
 先場所で幕内初優勝を果たした阿炎に続き、大関復帰に向けて快調な朝乃山。ただ、やく氏は「処分の重さばかりが耳目を集めたが、下の番付で朝乃山と当たった力士が、迷惑を被ったことを忘れてはいけない」ともくぎを刺す。
 「朝乃山はけがや衰えがあったわけではない。それゆえ、三段目や幕下力士との力量差は歴然としている。彼らにとって、不祥事を起こした元大関のために星を落とすのは不公平だ。その星1つで力士人生が変わることもある。不祥事で幕下以下に番付を下げた力士は優勝相当でも優勝扱いにせず、対戦力士の星勘定に組み込まないといったルールも必要では」
 コロナ禍のさなかでは、プロ野球やJリーグでも、外出禁止のルールを破る選手はいた。だが、罰金や短期の出場停止で済んでいる。相撲界とは差があるように思える。明治大の川口浩一教授(刑法)は「コロナ禍が長引いており、プロスポーツ選手の感染防止策に関わる問題は今後も続くだろう。スポーツ界全体で話し合うべき課題だ」と処分のあり方を議論するよう促した上で、提言する。
 「競技ごとに処分の差が出れば、ファンに不公平感を抱かせる。アンチ・ドーピング機構のように、統一的に罰則を決める民間組織をつくることが望ましい」

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