渡辺徹さんを悼む 演劇愛し、芸域も広く 人ひきつけた絶品の話術

2022年12月3日 07時15分

妻の榊原郁恵(右)、息子の渡辺裕太(左)との朗読劇をPRした渡辺徹さん=2021年7月11日、東京都目黒区のホリプロで

 十一月二十八日に敗血症のため六十一歳で亡くなった渡辺徹さんは、テレビのバラエティー番組などで見せたままの気さくで親しみやすい人柄で、マルチな才能を持ち、何よりも演劇を愛した人だった。
 高校時代、たまたま演劇に誘われて、名作「一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)」の名せりふ「しがねえ姿の土俵入りでござんす」をやったところ、拍手喝采を浴び、扉が開いた。「演劇で感動を与えられたら」と文学座の門をたたいたが、「当初は『おー、ハムレット』のせりふを(故郷の)茨城弁特有の語尾上がりで言って直されてました」。かつてのインタビューで愉快そうに振り返っていたことが印象深い。
 二〇一二年の舞台「ハーベスト」は、心臓の手術後の舞台復帰作だった。「今は舞台がいとおしく感じられる。一回一回を一期一会のつもりで味わいながらつとめたい。また舞台に立てるのが、何よりのハーベスト(収穫)です」。しみじみ語っていた顔には演劇への愛が満ちていた。
 テレビなどで見せたコミカルさから、舞台でのシリアスな役まで芸域は広かった。ある時は「中学時代、音楽部でバリトンサックス担当だった」という話題になり、「なが〜く伸ばす音符ばかり。本当はメロディーラインをやりたかったなぁ」。ちゃめっ気たっぷりに、聞く人を自然とひきつける話術は絶品だった。
 「自分の中のいろんなものを発見していきたい。それが演劇だと思います。(役者として)まだ宿題が残っています」と話していた渡辺さん。まだまだ芸域の開拓途上だったのかもしれないが、その芸には十分楽しませてもらった。 (山岸利行)

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