尾野真千子 映画「千夜、一夜」 愛する人、待つ思いは…

2022年10月20日 07時19分
 北の島の港町を舞台に、行方不明になった夫を待つ妻たちの思いや、人間模様を描いた公開中の映画「千夜、一夜」(久保田直監督)。愛する人が突然姿を消し、理由も分からない中で人は待てるのか。同じ「待つ女」ながら、田中裕子演じる主人公と対照的な女性役の尾野真千子(40)は「待つことはすてきなこと。でも、それがいいことなのか考えさせられる作品」と語る。 (上田融)
 登美子(田中)は水産加工場で働きながら、三十年前に姿を消した夫の帰りを待っている。拉致の可能性も否定できない。幼なじみの春男(ダンカン)が思いを寄せ続けるが、登美子は応えない。そんな折、二年前に夫が失踪した奈美(尾野)が現れる。奈美は自身の思いに折り合いをつけ、前に進もうとしていた…。
 「奈美は自分で人生を設計して、『こうありたい』と思っている。待ち続けるより、自分の人生を考える姿は現実的かなと思う」。奈美の考えに寄り添う一方、「待ち続ける気持ちも分からなくはない」と登美子にも理解を示し、「奈美と登美子に共感する人は半々だと思う」と話す。

公開中の映画「千夜、一夜」から

 では、大切な人がいなくなったら自身は待てる? 「どうだろう。まだ若いし、これからの人生があるという時に本当に待てるかっていうと…とても難しいテーマ」と考え込んだ。ちなみにプライベートで一番待ったのは「子どもの頃のお父さんの帰り」で、「朝早く仕事に出て、日が暮れれば帰ってくるのは分かっているんだけど、お父さん子だったから」だそうだ。
 デビュー作の映画「萌(もえ)の朱雀(すざく)」(一九九七年)から二十五年になった。今回の田中との共演では「刺激をもらい、気付かせてもらったり、教えてもらったし、感じた」と感謝する。詳細は「企業秘密」と笑ってかわしたが、「自分に響いて腑(ふ)に落ちたら、(次の演技の機会に)自然に生まれてくる感覚」という。
 撮影は主に昨秋、新潟・佐渡島で行った。「すごく温かく出迎え、見守ってくれた」という島の人々とは今も連絡を取り合う。「釣りが趣味なので、もう一度行ったら海に出たいし、トキを絶対に見たい」
 東京・テアトル新宿などで上映中。

◆劇映画2作目 久保田直監督 コロナ禍で撮影中断 8年かけ完成

 出発点は、北朝鮮による拉致の可能性を排除できないとする「特定失踪者リスト」だった。中に自分の意思でいなくなった人がいることを知り、驚いた。「出て行かれた側は理由が分からず、拉致されたかも、と考えている。そういう人の気持ちなどから構想を膨らませた」。監督の久保田直(62)=写真=は明かす。
 キャリアはドキュメンタリー中心で、劇映画は「家路」(二〇一四年)に次ぐ二作目。田中は「待つ人」のイメージから依頼、尾野は田中との共演を希望していると知って入ってもらった。二〇二〇年三月にクランクイン。間もなくコロナ禍で撮影が中断となり「裕子さんが『健康だったらまたできる』と言ってくれ、号泣した」。昨秋の撮影再開まで「心が折れそうだった」と振り返る。
 「自分の大切な人に、日ごろから大事な話をしているかな、と考えるきっかけにしてもらえれば」。それが、完成まで八年かかった本作への思いだという。

関連キーワード


おすすめ情報

芸能の新着

記事一覧