板谷由夏 ホームレス役、孤独と向き合う 路上女性への殴打死事件モチーフ 映画「夜明けまでバス停で」

2022年10月6日 07時50分

映画「夜明けまでバス停で」に主演する女優の板谷由夏=東京都渋谷区で

 新型コロナウイルス禍で仕事を失い、周囲に頼れずにホームレスになった女性の社会的孤立を描いた映画「夜明けまでバス停で」(高橋伴明監督)が8日、公開される。主人公は、「欲望」(2005年)以来17年ぶりの映画主演となる板谷由夏(47)が演じている。 (上田融)
 「私自身『人に頼っちゃいけない』と言われて育った気がする。でも、それは(社会が)豊かな時代の話。今は『助けて』って言っていいし、声を上げる人がいたら、おせっかいと思われようが助けなきゃ。それが作品のメッセージです」。熱っぽくそう語る。
 撮影前には主人公の職業に合わせて、居酒屋で深夜までアルバイトをした。店員の動きを身に付ける狙いだ。バイト仲間はシングルマザー、足りない生活費を稼ごうとする会社員、外国人ら社会的に弱い立場の人ばかり。「そういう人たちと接し、話せたのは大きかった」と振り返る。

「夜明けまでバス停で」から

 二〇〇七年から一八年まで日本テレビ系「NEWS ZERO」でキャスターを務め、貧困の現場も取材した。格差に対する問題意識はあったが、ホームレスを演じて気付いたことがある。「どんどん孤独になっていくのがつらかった。残飯を食べることなどよりも。独りぼっちになっていくからなのかな」
 高橋監督との仕事は映画「光の雨」(〇一年)以来だ。「勝手に親鳥みたいに思っていた方。今回、『板谷、やるぞ』と言われたのが本当にうれしかった」と明かす。ホームレスになった主人公が、世の中に自分の思いをぶつけようと、ある行動を起こすが、同じ立場だったら、どうするのか? 「選挙に行きますね。絶対!」。即答だった。
 東京・新宿のK’s cinemaなどで公開。

<ストーリー> 北林三知子(板谷)は居酒屋で住み込みのアルバイトをしていたが、コロナ禍で客が減り、仕事も家も失う。介護施設職員の内定を得るが、コロナ患者が発生し施設閉鎖で内定は取り消しに。家族や知人に頼れず、ホームレスになる。

◆怒りの封印解いた 高橋伴明監督

 本作は、二〇二〇年十一月に東京都渋谷区の路上で女性が殴られ死亡した事件をモチーフにしている。「(殺された)彼女は私だ」と声を上げる追悼デモの様子を見るなどして「社会に対して久しぶりに毒づきたい思いになっていった」。監督の高橋伴明(73)=写真=は明かす。
 一九七二年に監督デビュー。「TATTOO<刺青>あり」(八二年)など、社会性の強い作品を数多く手がけたが、近年は怒りを表に出すのをやめていた。「ガキっぽい怒り方をしていてはダメだと忍辱行(にんにくぎょう)に務めてきたが、世の中はひどい怒りのタネを増殖するばかり。もうストレートに出しちゃえ、と。格好よく言うと封印を解いた」
 菅政権が政策理念とした「自助・共助・公助」には腹が立った。「自己責任で頑張り、『もうダメです』と亡くなった人に公助はできますか」。怒りの吐露が本作だった。具体的な政治家の名も挙げて語るホームレスたち。自身の怒りも託した彼らは「世の中がおかしいと思っている庶民、大衆一人一人の代表選手」だとする。

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