この作品が私の転機に 主演・木村文乃 ベネチア映画祭出品「LOVE LIFE」

2022年9月15日 07時33分

主演・木村文乃

 第七十九回ベネチア国際映画祭コンペティション部門の出品作で、シンガー・ソングライター矢野顕子の同名の曲をモチーフに愛や人生に向き合う夫婦を描いた「LOVE LIFE」(深田晃司監督)が公開中だ。「矢野さんの声が見る方にふんわり届く瞬間をつくることが、私のやるべきことだった」。主演の木村文乃(34)は作品をそう振り返る。 (上田融)
 妙子(木村)は、息子の敬太(嶋田鉄太)を連れて二郎(永山絢斗)と再婚。集合住宅で幸せに暮らしていたが、悲しい出来事が夫婦を襲う。悲しみに沈む妙子の前に失踪していた元夫のパク(砂田アトム)が姿を現し、妙子たちに影響を与えていく…。

映画「LOVE LIFE」から

 二〇〇六年に映画デビュー。映画やテレビドラマを中心にキャリアを重ねてきたが、今作は「私にとって転機になる大切な時間だった」と明かす。
 俳優人生で身に付いた余計なものをそぎ落としたかった。どの位置で止まり、どの方向を向いたらいいかなどを「うまくこなそうとしていた」が、「小手先の技術で見せるのをやめ、一人の人間として(物語を)生きたい」と考えた時期だったという。監督から細かい指示はなく、一瞬の目の動きや話しかけてくる間で狙いを把握した。「細いピアノ線でつながるような心地よい緊張感。(自分に)プレッシャーを掛けながら演技することになり、プラスに働いた現場だった」
 物語に登場するのは、人生の選択で間違いもする「普通に隣にいるような人たち」だ。本作を通じて「迷いがある人、積もる思いがある人たちの心が軽くなったらいいなと思います」と思いを込めた。
 映画祭では最高賞の金獅子賞など受賞は逃したが、世界の映画関係者の目に触れた。「私ができることは何でもない一人の人間でも、出会う人と人生をどう生きるかで、そういう場に立てるという(のを示す)ことかな。自分もそうなってみようかなと思う一歩になればいいなと思います」
 ◇ 
 東京・日比谷のTOHOシネマズ シャンテなどで上映中。

◆深田監督 歌詞に妄想膨らんだ

 監督深田晃司(42)=写真=は二十歳の時、矢野顕子の「LOVE LIFE」を聴いた。「大ファンになり、何度も聴くうちに自然とシナリオが思い浮かんだ」のは、二十二、二十三歳の頃だ。
 最初は男女の別れを歌う普通の恋愛の歌だと思ったが、多様な解釈ができる歌詞に「妄想が膨らんでいった」。夫婦の前に失踪した妻の前夫が現れるまでとラストは早々と固まったが、途中が思いつかず、脚本化が決まった二〇一五年頃から本格的に考え、完成までに約二十年を要した。
 「映画館に、この曲を最高のタイミングで最高の状況で響かせたい、と思っていたのでモチベーションが下がることはなかった。この映画は矢野顕子さんの歌のためにあります」
 劇中、多くの人物が家族にうそをつき、きつい言葉を投げつける。「観客に理想を示すような映画は作りたくない。人間は当たり前に表も裏もある多面的な存在というのを描こうと思った」と語る。矢野に感想を聞いたのか? 「恐れ多くて聞けない」と照れくさそうだった。 (上田融)

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