「全人生を英国民にささぐ」21歳の誓いを全う 在位70年に及んだエリザベス女王の生涯とは
2022年9月9日 23時08分
「私の全人生は、たとえそれが長くても短くても、国民の皆さんと英連邦にささげることを誓う」。エリザベス女王は21歳の誕生日、国民に向けてラジオでこう語った。死の2日前にはりんとした姿で新首相を任命し、その誓いを最期の日まで全うした。
◆田舎暮らしにあこがれた少女時代
もともと、女王になる運命ではなかった。人生が変わったのは10歳のときだ。伯父の国王エドワード8世が離婚歴のある米国人女性と恋に落ち、突如退位。そのスキャンダルは「王冠を懸けた恋」と呼ばれた。
父がジョージ6世として後を継ぐと、動物を愛し、田舎暮らしにあこがれていた少女「リリベット」(幼少期の愛称)は次期女王となった。
◆カラーテレビで「開かれた王室」へ
即位当初は王室の伝統と国民との距離感に揺れたが、1960年代には情報発信にいち早くカラーテレビを取り入れ、王室の日常を紹介するなど「開かれた王室」へかじを切った。
97年にダイアナ元妃が事故死したときは、王室への批判が一気に高まり、在任中で最大の危機に陥った。しかし、すぐに世論を察知してテレビで国民に語りかけた。元妃に花を手向けにきた市民らと言葉を交わす姿は、好意的に受け止められた。
2012年のロンドン五輪開会式では、人気映画「007」の主役ジェームズ・ボンドと共演するユーモラスな演出を受け入れて話題となった。時代に合わせた情報発信で若い世代にも人気を維持した。英アングリア・ラスキン大のショーン・ラング上席講師(英近代史)は「女王は国民のムードを読み取るスキルにたけていた」と指摘する。
◆身内の不祥事には厳しく
一方で、親族には厳しかった。妹の故マーガレット王女と離婚歴のある男性との結婚に反対し、エドワード8世が英国に再び住むことを禁じ、さらに性的不祥事を起こした次男アンドルー王子からほぼ全ての称号を剝奪した。ラング氏は「身内であっても、君主制を守るためには断固たる行動を取った」と女王の決意を評価する。
世論調査大手ユーガブの直近の調査では「女王が良い仕事をしている」と考える人は8割を超えた。「生きている限り君主にとどまるべきだ」との回答も59%に達し、「引退すべきだ」の25%を大きく上回った。
初恋の相手で長年連れ添った最愛の夫フィリップ殿下に昨年4月に先立たれ、秋には公務でつえをつくようになった。歩行問題から公務を休むようになっても、今年6月の在位70年祝賀行事には堂々とした姿を見せた。
時代の変化とともに国民に寄り添い続け、国民の統合の象徴であり続けた女王。最後まで、国民への献身を貫いた人生だった。(ロンドン・加藤美喜)
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