コロナ給付金、事務費に計6700億円超 10事業を本紙集計 書類印刷、郵送…民間委託で費用膨張

2022年8月12日 06時00分
 新型コロナウイルス感染拡大を受け、政府が企業や家計に給付金を配る際、少なくとも10事業で計6756億円の事務費を計上していたことが本紙の調べで分かった。このうち、2980億円は民間委託された。申請書類の印刷や郵送費がかさんだほか、事務が多重下請けになっている民間委託もあり、費用が膨張した。(皆川剛、原田晋也)
 政府がコロナ禍で新たに設けた給付事業を所管する各省庁に取材し、2020年度が決算、決算が確定していない21年度は予算から事務費を集計した。給付金も含めた事業の総額は約28兆2961億円で、事務費に2.3%が費やされた計算だ。

◆事務費最大は岸田政権の看板政策

 事務費が最大だったのは、18歳以下の子どもに対する10万円相当の給付で1473億円。昨年10月に発足した岸田政権の看板政策だったが、現金とクーポンに半分ずつ分ける支給方法に、経費の増加や事務の煩雑さから自治体が反発。政府は現金一括での支給を容認することを余儀なくされた。
 事務を民間に委託した事業の中では、コロナ禍で打撃を受けた中小企業などに最大200万円を支給する持続化給付金の事務費が1096億円で最も大きかった。
 持続化給付金を巡っては、最初の元請けの一般社団法人サービスデザイン推進協議会が金額換算で約95%の事務を電通へ再委託。最大9次の多重下請けで500社以上が関わり、野党から「中抜き」を指摘されるなど不透明な業務体制が批判された。後に、経済産業省が委託ルールを見直したほか、会計検査院も委託先を決める手続きの不透明さなどを問題視した。
 持続化給付金や家賃支援給付金などでは不正受給も問題となった。給付の費用や不正を少なくするため、行政のデジタル化を求める声は有識者から大きい。

◆背景に行政のデジタル対応の遅れ マイナンバー不信が課題

 コロナ対策の各種給付金の事務費が膨らんだ背景には、行政のデジタル対応の遅れがある。有識者は「現状では個人の所得などを国が細かく把握する仕組みがなく、無駄が生じている」と指摘する。ただ、政府がデジタル化の核として挙げるマイナンバーカードの普及は、個人情報が漏れるとの不信感もあって、想定通り進んでいない。(原田晋也)
 「デジタル化が進めば個人の正確な所得を把握でき、本当に必要な人にきめ細かく迅速な給付ができる」。東京財団政策研究所の森信茂樹研究主幹はこう指摘する。
 2020年の特別定額給付金は、生活に困っていない層も含めた全ての国民が対象となり、窓口の市区町村の事務負担は膨大になった。受給のため申請書に振込先口座を記入して送る必要があり、郵送料などもかさんだ。デジタル化が進んでいれば、少ない予算でより迅速に給付ができたほか、本当に困った人だけに給付対象を絞ることも可能だった。
 コロナ禍の支援では、不正受給の問題も起きた。持続化給付金では、不正が相次ぎ刑事事件に発展する事例も。雇用調整助成金と休業支援金は厚生労働省の事後確認が甘く、重複支給が見抜けなかったケースがあることが会計検査院の調べで分かった。法政大の小黒一正教授は「しっかりチェックしようとすればそこでも事務費がかかるが、デジタル化すればそれも効率的にできた。なるべく不正が起こらない形で迅速に給付金を出せる体制を構築しておくことが大事だ」と警鐘を鳴らす。
 政府は行政のデジタル化のため、マイナンバーカードの普及に躍起だ。本年度末までにほぼ全ての国民にカードを交付する目標を掲げ、新規取得や公金受取口座の登録などで最大2万円分のポイントを付与する制度を実施中だ。
 しかし、カードの交付率は7月末で約46%にとどまる。個人情報が漏れるリスクや、政府に一元的に情報を管理されることへの不安が根強いとみられる。デジタル化の進展には、政府への信頼性を高めることも重要といえる。

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