子の命最優先 現場模索 大川小訴訟終結「対策積んでおくしかない」

2019年10月12日 02時00分

2011年3月、東日本大震災の津波で壊滅状態となった大川小=宮城県石巻市で

 東日本大震災の津波で犠牲になった宮城県石巻市立大川小学校の児童の遺族が起こした訴訟が終結、事前防災の不備を認めた二審判決が確定した。学校や行政に高水準の対策を求めた司法判断に対し学校現場では戸惑いが残るが、子どもの命を守るための模索が各地で続いている。 
 ▽多忙
 「現場にとって厳しい」。東日本大震災当時、宮城県東松島市の中学校に勤務していた和光大の制野(せいの)俊弘准教授(教育学)は、決定を重く受け止めた。「教員は多忙。サポートもなく、二審が求めた専門的な知識を学ぶ余裕はない」
 一方で「南海トラフ巨大地震などが想定される中では、ここまで厳しい内容でないと、被災経験のない地域には事前防災の必要性が伝わらないかもしれない」と理解を示した。
 文部科学省によると、東日本大震災では、六百人以上の児童や生徒、教職員が死亡した。大半が保護者への引き渡し後など学校ではない場所で被災しており、学校管理下で亡くなった大川小の被害が注目された。
 二審判決は、具体的な津波避難場所を定めていなかったマニュアルの不備を非難。文科省は大震災の翌年、地震や津波に関するマニュアル作成の手引を公表した。
 小中高など全国の約四万八千校を対象にした二〇一五年度の文科省調査では、97%がマニュアルを策定。津波浸水予想区域にある約五千校のうち、91%が津波想定のマニュアルを作っていた。
 ▽入り口
 ただ、マニュアルはあくまで備えの「入り口」にすぎないとする声も。宮城県沿岸部の中学校長は、今回の決定を「厳しい」とした上で「いざというときはマニュアルを読んでいる余裕はない。形式的な避難訓練を改め、命を守るために教職員自らが考える訓練を繰り返さないと」。
 大川小では校長が不在だったことも避難の判断が遅れた要因とされており、この中学校長は「私がいなくても人命第一を優先しなさい、と伝えている」と語る。
 ▽メッセージ
 南海トラフ地震の被害が想定される地域でも取り組みが始まっている。
 発生の可能性が高まっているとして気象庁が「臨時情報」を出した場合、高知県南国市は公立の小中学校全校を休校にすると決定。津波浸水が予想される区域の小学校の避難先も、近くの「津波避難タワー」などと指定した。
 市の担当者は「休校にすることで子どもをどうすればいいのか、家庭や職場が議論するきっかけにもなる」と期待する。
 児童百三十人が通う和歌山県すさみ町立周参見小。東日本大震災後に避難訓練を強化し、在校中だけでなく、登下校中や子どもだけで行動している場合も想定した。避難場所を確認し、高学年が引率してきた。「大川小と同じことが起こらないよう、対策を積んでおくしかない。できる限りのことをしている」と中山真一校長。
 安全なはずの学校でなぜ多くの子どもが命を失ったのか-。大川小が残した問い掛けに、制野准教授は「教育活動を見直し、子どもの命優先に転換せよというのが、裁判所のメッセージではないか。国や自治体は現場に丸投げせず、研修の充実などに本格的に取り組むべきだ」と話した。

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