日銀が金融緩和策を維持 円安阻止より景気下支え優先 輸入品価格さらに上昇の恐れも

2022年6月17日 21時53分
 日銀は17日、金融政策決定会合を開き、金利を極めて低く抑える大規模な金融緩和策の維持を決めた。会見で黒田東彦はるひこ総裁は急激な円安進行について、「為替はいろんな要因で動く。為替をターゲットに政策運営することはない」と明言した。円安阻止よりも景気を下支えする金融緩和を優先した格好で、大幅な利上げを続ける米国との金利差が広がって円安が加速し輸入品のさらなる物価上昇につながる恐れがある。

金融政策決定会合後に記者会見する黒田東彦総裁=17日午後、東京都中央区の日銀本店(代表撮影)

 会合後の公表文で、日銀は為替市場の物価への影響について「十分注視する必要がある」と明記。黒田氏も会見で、急激な円安は「経済にマイナスで望ましくない」と述べ、市場をけん制する姿勢も示した。ただ、緩和維持の決定直後には、円相場が一時1ドル=134円台後半を付けるなど短期間で1円以上円安が進む場面があった。
 金融緩和を継続する理由について、黒田氏は「今の物価上昇は、国際的なエネルギーや食料品の上昇を受けたもので景気への下押し圧力になっている」と指摘。その上で「そういう時に金利を上げると、コロナ禍から回復しつつある日本経済がさらに悪くなる」と説明した。(岸本拓也)

◆なぜ日銀は緩和修正に踏み込めない? 利上げも円安も景気冷やすジレンマ

 物価高を助長する円安が進む中、日銀は17日の金融政策決定会合で緩和策の維持を決めた。インフレを抑えるため主要国の中央銀行はそろって金融引き締めへ向かう。緩和継続にこだわる日銀の政策により、円の独歩安が進みかねない。
 「今の物価上昇は景気に対する下押し圧力になっており、金利を上げると日本経済のコロナ禍からの回復を否定してしまう。経済がさらに悪くなってしまう」
 黒田東彦総裁が17日の会見で述べたこの見解が、日銀が金融引き締めに動かない理由だ。利上げは海外との金利差を縮小させ円安進行を止める効果は見込めるものの、企業や個人はお金を借りづらくなる。コロナ禍で過剰債務を抱えた中小企業や住宅ローン世帯への影響も小さくなく、景気を冷やしかねないとの見方だ。
 日銀の大規模緩和は安倍政権の看板政策「アベノミクス」の一環で長年続けており、利上げするとそのツケで政府の財政状況が一気に悪化する恐れもある。日銀は金利を抑えるため国の借金である国債を大量に購入、おかげで政府は低金利で借金を重ねることができる。だが、利上げすると借金頼みの財政運営に支障をきたすことになる。
 日銀は、米国との経済状況の違いも引き合いに出す。直近4四月の日本の消費者物価指数(生鮮食品を除く)が前年同月比2.1%だったのに対して、米の5月の消費者物価指数は同8.6%増と約40年ぶりの高水準だった。エネルギーや食品の高騰に悩むのは両国とも同じだが、米ではレジャーや自動車、住宅などへの旺盛な消費も価格を引き上げている。
 日本でも供給側の要因ではなく、景気回復を理由に物価上昇が続けば、緩和からの金融正常化に向かう、と黒田氏は述べている。それまでの間は、円安がさらに進むことを覚悟しつつ消費を喚起する考えだ。
 ただ問題は、急激な円安が景気を冷やす点だ。経済同友会の5~6月の調査で企業経営者の73%が「円安はマイナス」と回答。消費者心理の悪化だけでなく、企業の投資計画にも影を落としかねない。
 東短リサーチの加藤出社長は「政府・日銀とも、金利上昇への警戒感の方が強い。日銀が動かず、米国の利上げの到達点が高まれば、1㌦=140円を超える可能性は高い」と指摘する。
 今年初めは「悪い円安とは考えていない」と楽観視していたが、次第に為替相場をけん制する発言も増えてきた黒田氏。円安を甘受して低金利政策を続けても、円安を止めるべく引き締めに政策転換しても、景気を減速させかねないジレンマに陥っている。(皆川剛、原田晋也)

◆「値上げ許容」発言巡り黒田氏「丁寧な情報発信に努めたい」

 黒田総裁は会見で、撤回を迫られた「家計の値上げ許容度も高まっている」という自らの発言について、「全く適切でなかった」とあらためて釈明した。その上で「私どもの真意が適切に伝わるよう、丁寧な情報発信に努めたい」とした。
 黒田氏は6日の「許容度発言」に先立ち、3日の国会でも「スーパーに行ってものを買ったこともあるが、基本的には家内がやっている。物価の動向を直接買うことによって感じているほどでもない」と発言。市民感覚とのズレを批判されていた。
 この日の会見では「最近の物価上昇が家計の行動に及ぼす影響について一層きめ細かく把握する」と約束し、国民に理解を求めた。(桐山純平)

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