更生や指導ではなく公的支援を…貧困や性暴力に悩む「困難女性」に新法 自治体の意識改革がカギに

2022年5月18日 06時00分
 売春防止法から女性への差別的な条文を削除し、貧困や性暴力の当事者らへの公的支援も明記した新法「困難女性支援法案」が18日、衆院厚生労働委員会で採決される。全会一致で可決された後、19日の衆院本会議でも可決、成立する見通し。売防法に基づく自治体の差別的な対応に傷つけられた女性からは「理不尽な対応を改めてほしい」と歓迎の声が上がる。支援団体は「実際に支援を担う自治体の意識改革こそが大事だ」と指摘する。(大野暢子)

◆DV被害女性「助け求める人に寄り添って」

 「ここまで傷ついても助けてもらえないのか」。東京都内に住む女性(26)は、2017年にわらにもすがる思いで頼った自治体への失望をこう振り返る。
 女性は当時、同居していた男性から暴力や暴言を繰り返し受けていた。預金通帳は取り上げられ、友人との交流も禁止。若い女性が殺害されたニュースを見た男性に「おまえもこうなるかもな」と脅された。半年間ほど耐えたが、命の危険を感じ、若年女性の保護や支援を担う都内のNPO法人「BONDプロジェクト」に駆け込んだ。
 女性には頼れる家族がなく、都道府県が売防法に基づいて設置する「婦人相談所」の一時保護所に身を寄せた。だが、部屋は共用で薄い布の間仕切りがあるだけ。携帯電話の使用や1時間を超える外出は禁止で、集団生活を乱したとみなされると、職員から叱責された。「これ以上は耐えられない」。10日後に施設を抜け出し、BONDに戻った。
 威圧的な対応を受けたのは、売防法で、一時保護所が売春をする恐れがある女性らを受け入れ対象とし、「更生」や「指導」を行うと規定されているからだ。実際には、売春と関係がない暴力の被害者らの受け皿にもなっているが、職員に支援対象という意識が行き届いていないとされ、「かえって当事者を追い詰めている」と批判されてきた。
 女性は「今回の法案の成立を機に、助けを求める人に寄り添った支援が広がってほしい」と語った。

◆自治体の「女性相談支援センター」、多様な支援へ

困難女性支援法案は売春を違法とする売春防止法は存続させるが、女性への補導処分や保護更生を定めた条文を丸ごと削除する内容を含み、1956年の制定以来の抜本改正となる。さらに新法案で、貧困や性被害に直面する女性らを「困難女性」と定義し、支援対象と明記。その尊厳を守る規定も盛り込んだ。
 民間の支援者らが特に歓迎しているのは、売防法に基づいて自治体が設置する婦人相談所の転換だ。新法案で「女性相談支援センター」に改称。女性の心身の健康の回復を図るため、医学的、心理学的な援助を行うだけでなく、就労の支援や住宅の確保などの支援を、対象者の意向を踏まえて行うように求めている。
 国には自治体に必要な財政支援を義務付け、都道府県にも困難女性を支援するための基本計画や支援施策に関する重要事項を定めるように要請。施行は2024年4月を予定している。
 NPO法人「BONDプロジェクト」の橘ジュン代表は「新法の掲げる理念を実現するには、法に対する自治体の理解が欠かせない。施行後は民間支援団体とも連携して困難を抱える女性の目線に立った対応をしてほしい」と求めた。

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