女性の生きづらさなくす政治を 女性議員主導で売春防止法の「更生」「収容」見直し 新法案を今国会提出へ

2022年3月8日 06時00分
 貧困や虐待、性暴力などで居場所を失った女性を支える新法「困難女性支援法案(仮称)」が与野党議員の有志により、今国会に議員立法で提出される。法案は、困難を抱える女性への公的支援を売春防止法の「更生」から切り離し、実生活に寄り添った包括的な支援を目指す内容。取りまとめに尽力したのは、支援団体や当事者の声を聞いてきた女性議員。女性の生きづらさにより目を向けた政治のため、男女比に偏りのない国会が求められる。(坂田奈央、大野暢子)

◆貧困・性被害者に寄り添った包括支援、実施は国と自治体の責務

女性支援のための新法制定に向け、意見を交わす与野党の女性議員や民間団体メンバーら=国会で

 2月中旬、国会内の一室。貧困や性被害、予期せぬ妊娠などに悩む女性を支える団体の関係者が集まり、議員から困難女性支援法案の説明を受けていた。
 「これで女の子たちも安心して過ごすことができる」「素晴らしい法案をありがとう」「必ず成立を」。期待の声と拍手の中、議員らは「何としてもやります」と真剣な表情で応じた。
 法案は、性被害や家庭の状況で日常生活に困難を抱える女性を対象とし、人権擁護や自立までの包括的な支援を明記。必要な施策の実施を国と地方自治体の責務とした。

◆圧倒的な当事者意識

 自民党の上川陽子前法相ら与党有志が2016年、女性支援の法的な見直しを政府に提言するなど機運を醸成してきた。野党とも連携し、超党派の賛同を得て早期成立を目指している。
 支援団体のメンバーは「有力な女性議員が一貫してけん引してきたことが大きい」と振り返る。有志の1人、国民民主党の矢田稚子参院議員は「こうした議員立法に取り組む女性議員には圧倒的な当事者意識がある。私も社会に出て、あらゆる場でマイノリティーの立場を経験した」と語る。
 法案提出に向けた議論や党内調整には、男性議員も精力的にかかわってきた。別の女性議員は「女性だけの解決には限界がある。生活者の問題に熱心な男性議員も増えている」と語る。

◆女性議員が増えれば男性議員の意識も変わる

 現在の国会議員の女性比率は衆院が9.7%、参院が23.1%。人口の約半数が女性である社会の姿とは今も大きな隔たりがある。
 三重大の岩本美砂子教授(政治学)は、児童買春・ポルノ禁止法やドメスティックバイオレンス(DV)防止法など、女性の困難を防ぐための法律は、女性議員が成立に中心的な役割を果たした割合が高いと指摘。「女性が法整備を求める声を上げても、男性ばかりの国会ではなかなか取り上げられない。議会に女性が増えてさまざまな問題を提起するようになれば、男性議員の意識も変わる」と、国会におけるジェンダー平等の意義を訴えた。

売春防止法と困難女性支援法案 困難を抱える女性の公的保護は、都道府県の「婦人保護事業」で実施する。「売春を行うおそれのある女子」の補導処分や保護を明記した売春防止法が根拠法。1956年の制定から抜本改正はなく、「更生」「収容」などの文言がある。支援が必要な女性の実態とかけ離れており、当事者を追い詰めるような運用につながるとして、支援者らが問題視してきた。困難女性支援法案では、売防法の一部を廃止し、新たな根拠法となる。


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