<食卓ものがたり>理想の味を日々あぶり出す 焙煎コーヒー(東京都台東区)

2022年2月19日 07時40分

焙煎したコーヒー豆の状態を確認する高橋史郎さん=東京都台東区で

 開店前のフロアは、深呼吸したくなるような、いった豆の香ばしさに包まれていた。自家焙煎(ばいせん)コーヒー店「コフィノワ」(東京都台東区)。煙突まで入れると二メートルにもなる焙煎機からゴーッと音が響く。「まもなく焙煎された豆が出てきますよ」。店主の高橋史郎さん(51)の声が弾んだ。
 「店の心臓」と呼ぶ焙煎機は、口当たりが柔らかく仕上がるのが特徴の半熱風式。同業者から譲り受け、香りや味わいの豊かさをとことん追求するため、バーナーやシリンダーなどは独自にカスタマイズした。
 生豆を投入してから十数分間、火力を上げる時機を見計らい、空気量も調整しながら焙煎する。一日七〜八回で約二十キロの豆をローストする。「理想の味に近づけるため、検証は欠かせない」。手書きノートに、豆の種類や温度の変化、焙煎時間など毎回のデータを必ず記録している。
 「地味だが、この微妙な調整が重要。焙煎がうまくいくと、コーヒー豆に含まれる多種多様なフレーバーやアロマがたくさん感じられるんです」。焙煎したら終わり、ではない。風味や成分の変化を見逃すまいと、毎日味を確認し、最もおいしい状態の豆の提供を心掛ける。
 飲食店経営を経て、焙煎した豆を小売店などに卸す会社で十四年間、コーヒーに携わった高橋さん。「香りや甘さといった高品質コーヒーの魅力を知った。扱いが難しいからこその面白さも分かり、新たな夢ができた」
 念願の店を始めたのは二〇一六年夏。広めのスペースを借りられ、カフェも併設する。「おいしいと感じた時は一口飲んだ後、カップを置く前にもう一口飲んでくれる。そんなお客さんの反応を間近で見られるのはカフェならでは」と喜びを感じている。
 開店直後は数店だった自家焙煎の店も徐々に増え、蔵前は今やコーヒーの街として人気を集める。「あの街に行けば、おいしいコーヒーが飲めると、お気に入りの店を探してもらえる街は楽しいですよね」。昨日より今日、さらにおいしく、という思いが詰まったコーヒーを届け続ける。
 文・小林由比/写真・中西祥子

◆味わう

 ブラジル、グアテマラ、エチオピアの3種類の豆をブレンドした「蔵前ブレンド」は、バランスの良い味わいで、開店当初からの人気商品。蔵前散策の土産用としても人気だ。100グラム830円(別途送料200円)。このほか、インドネシアやケニアなどのコーヒー豆を使った十数種類の商品を扱う。同店のホームページ(店名で検索)からオンラインでも購入できる。
 店内でも入れたてのコーヒーが味わえる。ドリップコーヒーはいずれも500円。トーストや焼き菓子などのメニューもある。

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