高梨沙羅「失格」に一部ネットでバッシング 失意の選手をたたく背景は…<スキージャンプ>

2022年2月9日 13時18分
ジャンプ混合団体、2本目のジャンプで着地する高梨沙羅=張家口で(AP)

ジャンプ混合団体、2本目のジャンプで着地する高梨沙羅=張家口で(AP)

 北京冬季五輪のノルディックスキー・ジャンプ混合団体で、高梨沙羅(25)がまさかの失格になった。高梨と言えば、以前からネット上でバッシングを浴びていた。心配なのは高梨の精神面。結果を残せなかった選手を心ないバッシングからどう守ればいいのか。(古川雅和)
 2回目の飛躍を終えてしゃがみ込み、号泣する様子が繰り返しテレビで流された高梨。1回目は、スーツの規定違反で失格になっていた。「自分のせいだ」と責めを一身に受け止める姿に、厳しい言葉など出てこないようなものだ。実際、競技中からネットは擁護の声が目立った。
 にもかかわらず、だ。匿名掲示板では「悲劇のヒロインを気取りたいのか?」「本当に迷惑」などと、書くのもはばかられる言葉が並ぶ。それは、個人ノーマルヒルで4位とメダルに届かなかった時にもあった。代表的な非難が、高梨のメークに関するものだ。
 会社で働く年齢になった高梨。メークをして試合に出るようになると「調子に乗るな」「そんな暇があるなら、練習しろ」と心ない言葉が繰り返された。
 そんな批判に、世界的人気バンド「X JAPAN」のYOSHIKIが6日にツイッターで言及。「メイクするのは個人の自由 モチベーションが上がる」とつぶやいた。他のタレントやアスリートも擁護の声を上げたが、攻撃はやまなかった。

◆「天は二物を与えない」というが…

 失意にある選手を、ここぞとばかりにたたく背景には一体、何があるのか。
 「ジェラシーがある」と、日本型バッシングに関する著書がある大妻女子大の小谷敏教授(メディア論)は指摘した。最近の選手はスポーツができるだけでなく、見た目も華やか。家族が一流企業に勤務することなども報道される。「天は二物を与えないというが、二物も三物も持つ。批判する人たちから、上級国民やセレブと見られてしまった」
 高梨は10年以上も第一線で戦い、五輪で上位争いを続けてきた。「彼女がしているのは並大抵のことではない。期待が高い分、それを無視して、結果が出ないことを批判する」と述べ、選手の努力を認めない一部の風潮に憤った。
 アスリートはベストを尽くしても結果が出ず、壁にぶつかることはある。そんな時、当人はどう乗り越えていけばいいのか。
 東京女子体育大の阿江美恵子教授(スポーツ心理学)は「思い通りにいかないのがスポーツの世界」と話す。小さい頃から競技を続ける学生のほとんどが何度も前に進めなくなり、抜け出せなくなることもある。「そこで気持ちをどう切り替えるか。自分の可能性と結果だけで、先のことを決めつけないでほしいと、教えている」
 成績が伸びず、迷ってしまった学生には「競技をしていて楽しいか、なぜその競技を続けているのか、あらためて聞く」。そうして、次のステップに踏み出させるのだという。
 だが、結果だけでたたきまくる人たちはいる。他国でも選手に対するバッシングは起きている。
 中京大の千葉直樹教授(スポーツ社会学)は「バッシングはたまたまスポーツイベントに対して起こったにすぎない」と考える。「(結果だけで)女性選手の容姿を批判することは、勝利至上主義と性差別主義と言わざるを得ない。本来なら規制すべきだ」
 一方、小谷さんはメダルを重視する報道にも疑問を向ける。「スポーツの本質は、素晴らしいパフォーマンスを見せることだ。報道も変わらないといけない」

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