将棋・第63期王位リーグ 元王位の広瀬章人八段が大胆予想 藤井聡太王位に挑戦するのは…

2022年1月21日 20時10分
 
将棋のお~いお茶杯第63期王位戦(東京新聞主催、伊藤園特別協賛)の挑戦者決定リーグが2月1日に開幕するのを前に、元王位でA級棋士の広瀬章人八段(35)にリーグの展望を聞きました。初のリーグ入り4人を含む顔ぶれの印象、注目カード、そして各組の優勝者予想について、トップ棋士の視点からズバリと斬り込んでもらいました。藤井聡太王位(19)=竜王、叡王、棋聖=に挑戦するのは誰か、皆さんも予想してみてください。
 ―予選を突破した面々を見ての印象は
 「渡辺明名人や永瀬拓矢王座といったタイトルホルダーが予選で敗退してしまったのが特徴ですね。若手が多く、フレッシュな顔ぶれになりました」
 ―予選の対局を見て、印象的だった棋士は
「久保利明九段でしょうか。充実している関西の若手を相手に勝ち上がり、決勝でも菅井竜也八段との対決を制しました」
 ―関西からは糸谷哲郎八段が初のリーグ入りです
「意外でしたね。王将リーグには何度も入っているのですが。予選では、ライバルでもある稲葉陽八段に勝ってのリーグ入りでした」
 ―王位戦初参加でリーグ入りしたのが伊藤匠四段の印象は
 「予選で永瀬王座に勝っているが、偶然ではなく実力で勝ったといえる内容でした。予選を突破したことに違和感はない。昨年はABEMAトーナメントでの活躍、新人王戦の優勝など、他棋士からの信用も勝ち取った。いよいよ藤井王位と同い年の若手が階段を上り始めた気がする。いつタイトルに挑戦してもおかしくない逸材だと思います」
 ―千葉幸生七段は予選で渡辺名人を破り、決勝で佐藤康光九段にも勝ちました
 「千葉七段は若手時代は振り飛車党で、居飛車に転向した。棋風と同様、着実に活躍の場を広げられているのは立派だと思います」
 ―日本将棋連盟の常務理事も務める西尾明七段も初のリーグ入りです
 「理事職で忙しく、研究時間はほとんど取れないはずなので、少し意外な結果でした。予選決勝での青嶋未来六段戦はリードを奪って、しっかり勝ちきった将棋でした」
 ―黒沢怜生六段も初参戦
 「関東では珍しい振り飛車党で、金銀が前に出てくることをいとわない、力強い棋風です。いろんな型を持っているのが強み」
 ―近藤誠也七段、池永天志五段の20代2人は、前期のリーグ陥落から1期で返り咲きました
 「近藤さんは若手の中では抜けた存在。ただ、タイトル挑戦には絡んだことがない。今期は期するものがあると思う。順位戦の昇進が早く、リーグ戦形式の棋戦が向いているのでは。池永さんはひょうひょうとしたタイプで、気がついたらリーグ入りする棋士になったという印象。目立つわけではないが、実力をしっかりつけている若手です」

第63期王位リーグの展望について語る広瀬章人八段

 ―シード組の4人はどうでしょう
 「羽生善治九段はタイトル通算99期。みんな100期が見たいと思います。ただ、進行中のA級順位戦では苦戦されている。羽生九段といえども、現代の将棋にマッチするのには苦労をされているという印象。ただ、前期も挑戦者決定戦に進むなど、王位戦とは特に相性がいいと思います」
 ―前期挑戦者の豊島将之九段はどうか
「本人に聞いてみないと分からないが、昨年の藤井さんとの17番勝負(王位戦、叡王戦、竜王戦)を経て、良くも悪くもどう変わったのかがポイント。30歳を超え、少しずつ終盤でのミスが出るようになる年齢かと思いますが、一局を通じての安定感は健在です。各棋戦で常にタイトル挑戦の候補に上がる棋士です」
 ―澤田真吾七段、佐々木大地五段は王位戦と相性のいい棋士です
 「30歳の澤田七段は若手から中堅に変わりつつある時期。比較的じっくりした駒組みを好むタイプですが、最近は将棋の傾向がみんな積極的になっている。どうバランスを取るか、試行錯誤していると思います。佐々木五段は勝率が高く、安定感がある。もう少し爆発力があれば、どこかでタイトルに挑戦していてもおかしくなかった。今期、挑戦争いに加わっても不思議ではないが、そこを突破できるかが課題でしょう」
 ―王位リーグは紅白の2組に分かれて開かれます。組分けを見ての感想は
 「紅組と白組の平均年齢が大きく離れている点に驚きました。紅組は若手中心でフレッシュ。白組はベテランが多く重厚です」
 ―確かに白組38・3歳に対し、紅組は28・7歳です。注目の対局は
 「紅組は豊島九段と伊藤四段の対局が最終戦で組まれているのが楽しみですね。どちらかの棋士はリーグ優勝争いに絡んでいると思うので、大事な対局になりそうです」
 ―白組はどうでしょう
 「羽生九段が若手とどう戦うかが楽しみです。過去に対戦が少ない澤田七段、池永五段との対局に注目しています」
 ―ずばり優勝者の予想は
 「どうしても先後の数を見てしまうんですよね。王位リーグは全5戦なので、先手番が3回の棋士と2回の棋士に分かれる。そうすると、紅組は先手番が3回ある豊島九段、と言いたくなる。ただ先手番が2回の伊藤四段は、その相手が豊島九段と近藤七段で、有力そうな2人というのが好材料です。最終戦の豊島―伊藤戦で勝った方の優勝と予想します。あと紅組唯一の振り飛車党である黒沢六段には、いい感じにリーグを荒らしてほしいなと期待しています。初戦の豊島九段戦に勝つとダークホース的な存在になる気がします」
 ―白組の予想は
 「実績では羽生九段と久保九段が抜けているんですが、2人とも先手番が2回なんです。最近の将棋は先後の影響がシビアになってきています。糸谷八段は先手が3回ありますが、どっちに転ぶか分からない将棋というイメージ。安定感という意味では澤田七段の方かな。順位戦でも好調ですし、リードを奪って逃げる展開になれば、先手番3回というのが生きる気がします。澤田七段の優勝と予想します」
 ―少し意外な予想でした
 「普通の予想だとつまらないので、挑戦者決定戦は伊藤―澤田戦と予想します。当たったら褒めてください(笑)」
 ―ほかにリーグの注目ポイントは
 「やはり初戦が大事。白星か黒星かでモチベーションが変わってきます。初戦で勢いに乗った棋士が優勝争いをすると思います」(聞き手、樋口薫)

ひろせ・あきひと 1987年、札幌市出身。勝浦修九段門下。2005年プロ入り、10年に初タイトルの王位を獲得。18年には竜王を獲得し、タイトル獲得数は通算2期。現在、順位戦はA級に在籍。

中日新聞・東京新聞 将棋公式チャンネルでは、王位リーグを展望する広瀬八段の動画を公開中です。

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