好きなのに結婚できず、子どもを持てない… トランスジェンダーの監督が描く恋愛映画「フタリノセカイ」

2022年1月12日 17時00分
 出会った時から引かれ合った相手が実は、戸籍上の性別が同性で、結婚できないと分かったら…。トランスジェンダー男性と恋人の女性の2人の10年間を描いた恋愛映画「フタリノセカイ」が14日から、新宿シネマカリテ(東京都新宿区)など全国で順次公開される。自身もトランスジェンダーの飯塚花笑かしょう監督(31)は「もしかしたら隣近所にも当事者が暮らしている、と想像の幅を1歩広げてもらえたら」と話す。 (奥野斐)

映画の一場面から真也(左)とユイ=©2021 フタリノセカイ製作委員会提供

 作品は、飯塚監督の出身地である前橋市と隣の高崎市で撮影した。保育園に勤めるユイと、実家の弁当屋を手伝っている真也しんやのラブストーリー。付き合い始めた2人は結婚の約束を交わすが、ユイは真也が体は女性で、男性として生きるトランスジェンダーだと知る。結婚できず、子どもを持てない現実に葛藤しながら、やがて2人なりの幸せの形を見つけていく。
 「LGBTQ(性的少数者)の一庶民を描きながら、希望を見いだせる作品にしたかった」。出生時は女性で、男性として生活しているトランスジェンダーの飯塚監督は語る。
 真也役は、トランスジェンダーでない若手俳優の坂東龍汰りょうたさんが演じた。飯塚監督は、胸の膨らみを隠すために猫背になりがちなことや、男性の外観で生理用品を買いに行くつらさなど、実体験を時間をかけて伝え、違和感を実感してもらったという。

映画「フタリノセカイ」について話す飯塚花笑監督=東京都千代田区で

 米国などではトランスジェンダー役は当事者が演じるべきだとの意見もあるが、飯塚監督は「日本では、そもそも(当事者が)映画業界に入りづらい。ゆくゆくはトランスジェンダーの俳優が活躍できる土壌をつくっていきたい」と展望する。
 日本の法制度の問題点にも触れる。国内では現在、性別適合手術をして「生殖腺の機能を永続的に欠く状態」などの要件を満たさないと、戸籍の性別変更は認められない。同性婚はできず、かといって手術は経済的、肉体的負担も大きい。「手術要件はなくすべきだと思うが、まずは現状を知ってもらい、疑問を投げかけたい」と思いを込めた。
 「最終的に、性別を語らなくても許される社会が理想」という飯塚監督。「当事者が日常的に何につまずき、何を障害と感じているか、1つ1つ知ってほしい」と話す。
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 首都圏では東京都立川市や横浜、川崎両市などでも上映。詳細は公式サイトへ。LGBTQの生きやすい社会を願い、上映による収入の一部が支援団体に寄付される。

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