娘を亡くし 暴走する父 映画「空白」きょう公開 主演の古田新太、難役巧みに

2021年9月23日 07時33分
 娘を失った父親が暴走の果てに見たものとは−。二十三日公開の映画「空白」(吉田恵輔監督)は、追い詰められる人間たちを巡るサスペンスだ。主人公である父親、添田充を演じたのは古田新太(55)。信念を貫こうとする中で気持ちが揺れ動く難役にも、「来た役は断らないタイプ。一生懸命やらせてもらった」とさらりと振り返る。 (藤原哲也)
 漁師の添田は、一人娘の花音(かのん)(伊東蒼)を育てるシングルファーザー。ある日、花音はスーパー店長の青柳(松坂桃李)に万引を疑われ、追い掛けられた末に事故で亡くなる。悲しみと怒りに満ちた添田は、娘の無実を明らかにしようと息巻く。「新聞記者」など、近年社会派の話題作を送り出す映画製作会社「スターサンズ」の最新作だ。
 青柳の胸ぐらをつかみ謝罪を要求。「いたずら目的で花音を万引犯に仕立てたのでは」と疑い、青柳を待ち伏せては罵詈(ばり)雑言を浴びせる。学校にも乗り込み、万引が本当なら、いじめられて誰かに強要されたものだと主張。添田は狂気のモンスターと化していく。

映画「空白」から。古田新太(左)と松坂桃李

 「台風一家」(二〇一四年)以来、七年ぶりの主演映画は迫真の演技の連続だが、「そんなに怖くないです」とニヤリ。「周りに『あんなやついるな』とか考えながら楽しめて、ちゃんとエンターテインメントになっている」と話す。
 悲しみの一方で、添田は娘としっかり向き合ってこなかった後悔にさいなまれる。微妙な心情を持った役だからこそ、役作りも「狂気」を意識しすぎないようにしていたといい、「桃李とのシーンは、向こうの芝居に結構乗っからせてもらった」と明かす。
 添田の圧力に加え、過熱する報道で青柳らは追い込まれていく。共演シーンの多い青柳役の松坂は、実写映画で初共演だった。「芝居の反射神経がすごくいい俳優。(自分は)本番は一回でいきたいタイプなので信頼できたし、『そこまで(演技で)追い込めるんだ』と思うと楽しかった」。表情には充実感がにじむ。
 言わずと知れた「劇団☆新感線」の看板俳優。とはいえ、今年に入っても公演中止などコロナ禍の影響は続いている。
 「喜劇をやってる人間にとって、無観客や配信は地獄」と苦笑しつつも、「あの地獄を経験したのは、ある意味財産。やはり喜劇はお客さんありきと思った」との言葉に実感がこもる。喜劇とは対照的な本作だが、「ぎりぎりまで決まらなかった」と語る情緒的なラストシーンに、古田が演じる中で感じたかすかな希望が込められている。
 ほかに田畑智子、藤原季節、片岡礼子、寺島しのぶらが出演する。東京・角川シネマ有楽町などで公開。

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