夢の世界へダイブ 60代で初挑戦「年配こそ楽しめる」

2021年9月16日 07時57分
 どこまでも広がるグランブルーの海。群舞する巨大な魚たち−。夢のようなダイビングの世界を体験する主役は、六十歳を過ぎて自分の人生を生きる人たちだ。「本当の楽しみは年を取ってからやってくる」という意気軒高なシニアダイバー。コロナ禍で昨年から活動は止まっており、再開への期待と不安が交錯する。コロナ禍の収束を願いつつ、海に思いをはせる日々だ。 (蒲敏哉)

フィリピン人のガイドと海風を受ける市原さん(左)=フィリピン・セブ島で

 「こんなこと言うとなんですけど、人生で一番楽しかったのは七十代でダイビングをしていたとき」。そう明かすのは愛知県春日井市の市原美矢子さん(85)。
 定年退職した長女夫婦、会社員の孫(30)と四人暮らし。二十五年ほど前、長女夫婦と二世帯住宅を建てたが、その四年後に夫は七十四歳で他界した。喪失感を覚えながら六十五歳のとき、スキー友達に誘われてフィリピンでダイビングを初体験し、すっかり虜(とりこ)に。以来、インドネシア、オーストラリアと海外を中心に約三百六十回は潜った。

仲間から海中で誕生日を祝ってもらう市原さん(前列中央)=沖縄県・久米島で

 「美しい魚たちとサンゴを見ながら海中でぷかぷか浮かんでいるのが気持ちいい」。二〇一七年十一月の誕生日には沖縄県・久米島で海中誕生パーティーを開いてもらった。「一緒に潜った仲間と語り合うのはとっても充実する」と声を弾ませる。だが、昨年からのコロナ禍で、ダイビングは中止のまま。「若い人ほど体力の回復は早くない。また行けるか、実際不安です」
   ◇
 「コロナ禍が明けたら、鹿児島県のトカラ列島周辺に潜りたい」と言葉に力を込めるのは東京都墨田区の冨塚美佐子さん(66)だ。法政大四年のときサイクリング同好会の友人に誘われダイビングを習った。
 「当時は、フランスの海洋探検家クストーがスキューバを開発し、『沈黙の世界』など映画で海中を紹介していて魅力だった」ときっかけを話す。食品メーカーに就職後もパラオ、タヒチなど各国をダイビング。「仕事のストレスを潜って発散させていた」
 その後、母を介護するため五十八歳で早期退職。一八年に母は九十二歳で亡くなったが、ダイビングの趣味は続けてきた。これまで約千五百回潜水した。

潜水回数1500本を祝う冨塚さん(左)

仲間からケーキで祝ってもらう冨塚さん(前列中央)

 カンパチやイソマグロなど大型の回遊魚を見るのが好きで、最高だったのはガラパゴス諸島と、インドネシア領ニューギニア島のラジャアンパット諸島といった原始的な海だという。
 ダイビングは費用面でもハードルが高いイメージだが、市原さんは「海中では大きな体力も使わず、年配こそ楽しめるスポーツ。最初は器材をレンタルして始めてみては」と助言する。

◆息子・孫と3世代で

イルカと戯れる水谷さん=タヒチ・ランギロアで

 63歳からダイビングを始め西伊豆からパラオ、タヒチまで約550回潜っている東京都国立市の水谷奈保美さん(77)は、次男(41)、男性の孫(18)にもダイビングを勧め、2年前に沖縄県・阿嘉島(あかじま)で、3世代ダイブを楽しんだ。
 市原さん、冨塚さん、水谷さんの3人は千葉県館山市のダイビングショップ「マナティーズ」での友人同士。「店長の山崎由紀子さんの楽しいキャラが魅力でみんなが集まる。結局、一緒にやる人同士の人柄がすべて」と意見は一致する。3人はこう呼び掛ける。「65歳、70歳まで働く時代と言われますが、もっと人生を楽しめるように、シフトしたほうがいいと思いますよ」
 ※写真はすべて「マナティーズ館山」提供

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