<社説>イラン大統領選 革命理念が揺れている

2021年6月28日 07時36分
 イラン大統領選で、保守強硬派の司法府代表ライシ師=写真、共同=が圧勝した。投票率は過去最低で共和制の革命理念が揺らぐ。保守強硬派は国会でも優位で、国際社会での孤立が懸念される。
 穏健派のロウハニ大統領の任期満了に伴う選挙で、事前から「出来レース」とやゆされた。その空気からか、投票率は投票時間を延長したが、48%と一九七九年の革命以来、初めて50%を割った。
 イランの統治体制は微妙なバランスで成り立っている。卓越したイスラム法学者を最高指導者とする「法学者の統治」を国是としつつ、民衆が大統領を選ぶ共和制という革命理念も重んじる。
 折り合いとしてイスラム体制を護持しつつ、その枠内で民意や対外協調を重視する改革派と、それとは逆の保守派、中間の穏健派が大統領や国会議員の席を巡り、選挙で競い合う形が続いてきた。
 イスラム体制護持のため、立候補希望者には護憲評議会による事前審査がある。かねて審査が保守派寄りとの批判はあったが、今回は露骨だった。現最高指導者ハメネイ師の後継と目されるライシ師ありきの審査だったからだ。
 保守派でありながら、イラン核合意を支持するラリジャニ前国会議長が落とされた。同じ保守強硬派のアハマディネジャド前大統領も失格。改革派や穏健派の有力候補らは軒並み門前払いされた。
 米国のトランプ前政権が核合意から離脱し、制裁解除という「核合意の果実」が実らず、合意を支持した改革派や穏健派には逆風が吹いた。だが、そうした情勢以前に、今回の事前審査は革命理念を傷つけた。この先、国民の不満が体制を揺るがす懸念がある。
 保守強硬派の勝利で地域の緊張が一気に増大するとは言い切れない。ただ、イラン核合意への米国復帰の道のりは険しくなった。米国とイランは四月からウィーンで間接協議を続けているが、八月の新政権発足までに残された時間はわずか。その後、米国は大統領のみならず、国会でも多数派の保守強硬派と対面することになる。
 イランが国際社会で孤立し、核武装に走る事態は避けねばならない。イランと米国双方にパイプのある日本の責務は一段と重い。

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