住人が長期不在の「問題先送り空き家」増加 相続したまま解体足踏み「仏壇や遺品がある」

2021年6月3日 06時00分
 少子高齢化や過疎化などで、住人が長期不在の空き家が増えている。総務省が5年に1度行っている調査で、2018年は約349万戸と住宅総数の5・6%を占め、戸数・割合とも過去最高となった。近年、所有者が売ることも貸すこともないまま時間がたった例が目立つという。こうした空き家を、明治大学の野澤千絵教授(都市政策)は「問題先送り空き家」と名付け、国の支援や所有者管理の意識啓発の必要性を訴える。(奥野斐)

◆所有者の大半は中高年

所有者不明の空き家=2018年1月、さいたま市大宮区で

 総務省の住宅・土地統計調査では、空き家には調査時点で空室になっている賃貸用・売却用の住宅や、別荘などの「二次的住宅」も含まれる。18年10月時点の空き家の総数は約849万戸で、最多は賃貸用の51%、次いで住人が長期不在の「その他の住宅」が41%を占める。
 「その他の住宅」はここ20年で2倍近くに増加。転勤や入院などで住人が長期不在の家や取り壊す予定の家のほか、「問題先送り空き家」も含まれる。
 「団塊世代を中心に親から実家を相続したものの、そのまま10年、20年たってしまったケースが目立つ」と野澤さん。調査では、現住居以外に住人が長期不在の「その他の住宅」を所有するのは約73万世帯あり、このうち家計を主に支える者が60歳以上の中高年世帯が約51万世帯超で7割を占める。
 ゲリラ豪雨や台風で空き家の屋根や壁が破損し、行政からの連絡でようやく重い腰を上げる人も。だが「仏壇や遺品がある」「思い出がある」と、なかなか解体に至らないという。

◆背景に持ち家政策の副作用

 野澤さんは増える空き家の背景に、国による戦後からの新築重視の持ち家政策の副作用を指摘。「家を新築する場合には住宅ローン減税など税制上の優遇措置や支援が手厚い一方、家をたたむ場合には乏しい」と説明する。
 15年に空き家対策特別措置法が施行され、地域の生活環境などに深刻な影響を及ぼす空き家に対し、自治体が指導や勧告などの対応を取りやすくなった。自治体が入居希望者に物件情報を提供する「空き家バンク」も各地に増えたが、野村総合研究所の昨年の試算では、2033年には4戸に1戸が空き家になるとのデータもある。

◆「まずは家族で話し合いを」

倒壊しかけた空き家=2019年1月、群馬県南牧村で

 野澤さんは「空き家を放置すればするほど、処分や管理にコストや時間、手間がかかる。住まいにも『終活』が大事だ」と指摘。
 「使わない空き家について、国は所有者による解体が進むよう財政支援や税制などの優遇措置を検討すべきだ。所有者は家をどうするのか、まずは家族で話し合いを」と促している。

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