元WHO上級顧問の渋谷氏、東京五輪は「開催できる状況にない」 数万人規模の受け入れで医療維持困難に

2021年5月27日 06時00分
 公衆衛生学の専門家として世界保健機関(WHO)事務局長上級顧問を務めた渋谷健司医師(55)は26日、本紙のオンライン取材で、東京五輪・パラリンピックの開催について「できる状況にない」という認識を示した。開催都市の東京都などに緊急事態宣言が発令される新型コロナウイルスの感染状況や変異株の流行を踏まえ、数万人規模の選手らを受け入れれば医療体制が維持できない恐れがあると主張した。(市川千晴) 

ワクチン接種や検査拡充の必要性を訴える渋谷健司氏

 渋谷氏は国内の感染者数が依然高止まりし、医療体制が逼迫していると指摘。政府が検討する選手へのワクチン供給や関係者らの行動制限といった対策は万全と言えず、10万人近い選手らが来日することについて「リスクだ」と強調した。
 政府に対しては、ワクチン接種の促進や検査の大幅拡充に加え、収束に向けた工程表を示し、国民の安心感につなげるよう主張。研修を受けたボランティアの市民をワクチン接種の担い手として特例的に認めている英国を引き合いに、打ち手を増やすための機動的な規制緩和を求めた。

 しぶや・けんじ 1966年、東京都生まれ。東大医学部卒。米ハーバード大で公衆衛生学博士号取得。世界保健機関(WHO)勤務、東大教授を経て英キングス・カレッジ・ロンドン教授や同大公衆衛生研究所所長を務め、今月から福島県相馬市の「新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター」センター長に就任。WHO事務局長上級顧問などを歴任。

◆自粛頼みは限界 ワクチン接種促進と検査拡充を

 本紙のオンライン取材に応じた渋谷健司医師との主なやりとりは以下の通り。
 ―新型コロナウイルスの感染が収まらない中で、東京五輪は開けるか。
 「開催できる状況にないと言わざるを得ない。現実を見ると、日本国内ではコロナを抑えられておらず、医療も逼迫していて、これ以上の感染拡大に対応するのは難しい。世界的に変異株が流行しており、無観客であっても、隔離もなく、ワクチン接種も不十分な中で、10万人近いアスリートや関係者が来日すること自体がリスクだ」
 ―政府は、選手らへのワクチン供給や厳格な行動制限などで安全確保を図る考えだ。
 「先進国を別にすれば各国でワクチン接種が進んでいるわけではなく、中には打たない人もいる。屋内競技のリスクの高さなども分かってきている。毎日検査すると言うが、だから大丈夫ということにもならない」
 ―ワクチン確保の遅れが響いた。
 「それは昨年から分かっていたことだ。テニスの全豪オープンがあったメルボルンなど他国では検査と隔離をきちんと行い、感染を抑え込んだ。日本はやるべきことをやっていなかった。どういう条件なら開催できるかという科学的で建設的な議論が(政府などで)なかったのも良くないことだ」
 ―今後、政府が取り組むべきことは。
 「ワクチン接種を増やし、検査を拡充するなど基本的な対策をやるしかない。(外出)自粛など自主的な努力に頼る従来のやり方だけでは社会が疲弊するだけだ」
 ―ワクチンは打ち手不足も深刻だ。
 「今は国難なので、医師会との関係から薬剤師を使えない、というようなレベルの話をしても仕方ないのではないか。今、国民が不安を感じているのは、ワクチンを打ちたくても打てない問題に対してだ。ワクチンや検査などで『安心』を提供することこそ、政治の役割だと考える」
 ―前の勤務先があった英国の対策から学ぶことは。
 「これまで3回、ロックダウン(都市封鎖)をしたが、解除に向けたロードマップや、ワクチン接種と検査拡充と治療薬開発を柱とする『正常化への道』を示し、国民に安心感を与えている。日本でも、いつまでにワクチンを打ち、どのように社会・経済を回していくかという出口戦略を打ち出すべきだ」

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